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2010年1月

2010年1月31日 (日)

またまた一息

      アムイ・メイとキイ・ルファイ
Photo

突然ですが、いきなり下手糞な自分のイラスト載せてすみません
あまりこういう風に絵を描いてしまうと、文章の世界でのイメージが固定されてしまいそうな気がして、本当は載せない方がいいのではないかと思ったのですが・・・。
絵があった方が彩りを添えるかな~、と単純な理由で思い切ってしまいました(汗)
ペンもトーンナイフも筆を持ったのも、なんと十数年ぶりなので、かなり無謀でしたが
やはり絵にしちゃうと画力がないため、自分で思い描いていたイメージじゃないのが辛い。
(キイはもっと柔和な顔を妄想していたのに、何かきつくなってしまったし・・デッサン狂ってるしで)

と、毎回下書きなしで書いていますが、自分の頭の中では全て映像として話が進んでいるので、文章表現が乏しい自分には、頭の中を思ったとおりに再現できなくて(しかも変な日本語になってたりして)いつも悔しいです。
そうはいっても不思議なもので、あれだけ文章を書けずに躓いていた何年か前(ブログを始めた頃)に比べ、「書くこと」が苦痛にならなくなってる!という事が嬉しかったりするのです。リハビリと思ってブログ立ち上げ3年目でようやくここまできたーって感じです。(大げさででしょうか?)
人間、こつこつ日々触れたり、実践してないと、脳もそうなんですが腕も錆びてしまうんですね。(若い頃のイラストと、今のを見るとよくわかります)
最初の頃なんて、本当に文章が浮かばず(何をどう書いたらいいか)手が度々止まってしまっていました。
今回も無謀な事を始めて、大丈夫だろうかという不安はありました。(なにせ話ができていない状態だったので)
とにかくえいやっと飛び込んでしまったのですが、ここまで来てだんだんと書くことが楽しくなってきたのは自分にとって凄い収穫です。(できあがってる内容は別として
このまま完走すれば、初めて長編物で未完の作品がなくなるわけで(その方が一番大きいかも)まだ導入部分しか書いてないのに嬉しくてしょうがありません
何本と書き込んでらっしゃる方々の足元にはおよびませんが、ご縁あって覗いてくださってる方に恥ずかしくないように、これからも精進したいと思っています。
(お恥ずかしながら、アップ後もちょくちょく訂正加えてます。読み辛い所ありましたらすみません)

人物などの設定はもう少し役者が揃ってから、こういうブレイク・タイムでアップしようと思います。
とにかくこれから登場人物がどんどん多くなっていきます
内容が決壊しないよう、踏ん張ります

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2010年1月30日 (土)

暁の明星 宵の流星⑦

ロダは狂ったように大声を張り上げながら、男の背中に凶器を振り下ろした。
お供の者たちは恐怖のあまり目を背け、その反対にヒヲリは彼から目が離せなかった。

ふ。
と、男が口元で微かに笑ったのを、ヒヲリは見逃さなかった。

次の瞬間、驚くような速さで腰から剣を抜くと、自分に振りかかった木片を払い除け、素早くロダの後ろに廻りこむ。そして思いっきり相手の頭部を剣の柄で強打した。

「ぐえっ!!」
妙な声を出してロダは血を吐きながら前方のテーブルに倒れこんだ。
先程まで手の付けられなかった男が、今はあまりにもあっけなく白目を向いている。
それはあっという間の出来事で、周囲の者達は呆然とその様子を見ていた。

「え?え、え、え?
い、今何が起こったの??」
お供の女達が信じられない様子で囁き合い、ヒヲリは男の無駄のない動きに感嘆した。
男は面倒臭そうに溜息をつくと、剣を腰の鞘に収めた。

立ちすくむヒヲリらに男は振り向き、一瞥すると
「おい、怪我人を心配したらどうだ」
と、遠巻きに自分を見つめている人間達に言った。

「あ、ああっ!オーナー!」
我に返ったヒヲリは真っ青になって、自分を助けようとしてくれた老人に駆け寄った。
「う、うぅぅ・・・」
かなりの打撲と受けた傷から血が流れていたが、息がある。
ヒヲリはほっとしたが、老齢の身体にはかなりのダメージを受けていると、はっきり見て取れる。
「誰か早くお医者さまに!」
その悲痛な彼女の声に、店の常連客が数名慌ててオーナーを抱えた。

「ヒヲリちゃん、大丈夫だ。先生のとこにすぐ運ぶから心配するな」
「おい!こっちで血まみれになってる護衛のにーちゃんも誰か運んでやれ!」
わらわらと酒場にいた人間達がいっせいに動き出した。
「おい、ロダの奴はどうする?まだ息があるぞ」
「手足縛っとけ。桜花楼が騒ぎ聞きつけて今やってくるだろうからよ。また暴れちゃ敵わなん」

怪我人を運びに何人かが店を出た後、残った客のひとりが感心したように言った。
「おう、それにしてもあの兄ちゃん、すっげぇ強くてびっくりしたよ」
隣の小さい男も同意した。
「ああ、ロダに何をどうしたのかって・・・見えないくらい早かった・・・」
「あの身のこなし、只者じゃないよ・・・な」
ひそひそと話す男達に、ヒヲリのお供をしている世話人【葉桜】の老女は鼻息荒く割り込んだ。
「まったく、あれだけの男達がいて、誰も手が出せないってどういうことかい!さっさと逃げ出したくせして。情けないったら・・・・」
そしてうっとりとその若い男を見つめると、
「それに比べて、お若い方なのに・・・・」
そそくさと他の若い【蕾】達を従えて、彼の方に近寄っていった。

「本当にありがとうございました!貴方のお陰でヒヲリ様が助かりました!」
若い男はつ、と女達の方を見た。若い【蕾】達は男の端整な姿を目の当たりにしてうっとりしている。
その様子に気付いたヒヲリも、慌てて自分を救ってくれた青年の元へ急いだ。
「本当に助けてくれてありがとうございます。なんとお礼をしたらよいか・・・」
頬を上気させ、まっすぐ自分を見上げるヒヲリに、男が何か言おうとしたその時、

「ヒ、ヒヲリ~っ」
桜花楼、第一城内番頭である、雷雲が大勢を引き連れて店に飛び込んできた。
禿げた頭の大男が動揺を隠さず、まっすぐヒヲリに駆け寄ると、ぐわし、と両腕を掴んだ。
「ヒヲリ!無事か?大丈夫か?怪我はないか?」
大声でまくし立てる雷雲に辟易しながらも、心配して駆けつけてくれたことが嬉しい。
雷雲はヒヲリが【蕾】時代のお目付け役で、彼女昇進と共に、第一城内【満桜】の番頭に出世した男だ。
なので昔からヒヲリをよく知っていて、まるで家族のように親しくしてくれている人間でもあった。
「大丈夫よ!雷雲ったら、痛いわ。私は平気だから安心して。・・・オーナーと護衛の者が私のために大変な事になってしまったけれど・・・。ほら、ここにいる若い武人の方が助けてくださったから・・・」
雷雲はその言葉に初めて青年の存在に気付き、ヒヲリから手を離して彼に深々と頭を下げた。
「そうでしたか。ほんっとうにありがとうございます・・・。このお礼は・・・」
と、ふと視線の先に男の剣の柄が目に止まった。
「げ!!【風神天】の紋章」
雷雲は興奮した。
「おおおお若いの!貴方のそそそそ・・それは、聖天風来寺の【風神天】の紋章ではっ?」
「いきなりどうしたの?雷雲」
あまりにもの雷雲の様子に心配になったヒヲリは言った。
「知っているのか」
「ええ、ええ、それはもぉ・・・・。わしは昔から武人さんの事はよく知ってまして~・・・いやいやそのぉ・・」
大したことはない、雷雲はただの格闘家おたくであった。
一般よりねちねちと詳しいだけである。
「柄に【風神天】・・・まさか・・・まさかですが・・・。貴方様はあの、噂に名高き・・・【暁の明星】・・・」

ざわ・・・

その言葉に周囲がどよめいた。

あの東を暴れまわった名高き武人【暁の明星】が、こんなに若くていい男なのか・・・・。
信じられない思いはあれど、先程のこの男の見事な立ち回りを目の当たりにして、妙に合点がいく。
「それが何か問題でもあるのか?」
「いえいえ、めっそうもない・・・」
雷雲はさらに興奮して両手を振った。
その場で果たして本人かどうかは、雷雲も確かめる術はなかったが、後に本名確認や男の近郊での色々な活躍などで、本物だと確信したのだ。

「とにかく将来の【夜桜】候補をお守りくださって、本当に感謝しております。で、桜花の方から是非お礼金を差し上げたい、と思うのですが・・・」
「いや、金はいらない」
「え、では・・・何か他のお礼でも。恩人様をこのままお返しすれば、わしが支配人に叱られてしまいますんで・・・」
おろおろする雷雲の後ろにいるヒヲリに、【暁の明星】は彼女を覗き込むように声をかけた。
「お前。桜花の女か」
「は、はい・・・」
「ええ、もう、このヒヲリはこの若さで中央城内に住まう【満桜】になったんですよ。極上の美女でしょう?」雷雲が自分の事のようにヒヲリを自慢する。
「いつから城内に上がる」
「え~・・・、もう雑務は終わっているので・・明日にでも部屋を与えられると思うのですが・・・」
代わりに雷雲が答える。
「そうか」
「で、旦那。先程のお礼の件なんですが・・・」
「許可証を発行してくれ」
「は?」
「桜花には招待状か許可証がなければ客になれんのだろう?」
「はあ、それはそうですが・・・」
「一許可証を取るのに身元の審査とかなりの金がかかると聞いた。俺にお礼金をくれるというなら、それで許可証を取ってくれないか」
雷雲の顔がぱぁっと明るくなった。
「それでよろしいんで?そんなことならお安い御用で。旦那ならすぐにでもご用意できますぜ!」
許可証を取る、という事は常連客になる、という事だ。
ヒヲリを助けたという事で身元審査も楽に通るだろう。
桜花にとっても客人になってくれた方が利益はあがる。

「では、明日」
「は?」
「この娘の明日の予定は?」
「え・・・。明日はまだ別に・・・」
「なら」
【暁の明星】は一呼吸置いてから、ただぼうっと自分を見つめているヒヲリに向かって言った。

「明晩、お前を抱きに行く」

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2010年1月28日 (木)

暁の明星 宵の流星⑥

東の地は、十何年か前にこの国を統一していた民族が滅んだため、ここ数年内乱が内乱を呼び無法地帯と化していた。
大陸一、大きい国だったため民族も独立州も多く何度となく戦争を起こしてきた東の国。
それを300年もの間、紆余曲折あれど統率していたセド王族とその民が滅ぼされてからというもの、混沌とした状勢が、大陸の他の国にまで飛び火し、ここ何年か大陸全土に不穏な空気が続いていた。

中央の中立国ゲウラ。
北の貧しい国モウラ。
南の独裁者が総べる国リドン。
西の穏やかな友好的な国ルジャン。
そして大陸一大きく、他民族が集まるゲウラ程ではないが、いろんな大小の州や村が存在し、今は中心部を失い長い動乱の地となってしまっている東の国。(昔はセド族にちなみ、セドラン共和国と呼ばれていたが、今ではただの東の国となってしまっている)
そして東の国崩壊と共に、大陸としてひとつになろうとする各国の思惑も強くなっていき、最近では大戦争がいつ起こってもおかしくない程大陸は張り詰めていた。
そして、この大陸の五大国の他には、傍観している別の自治国、民族がいくつかあった。
そのひとつに、先に出た武人の聖地、聖天風来寺のある聖天山は東の国の最北の外れにあり、大陸の信仰の源である天空飛来という教会がある聖人の集う神の国オーンは、東の国の最南にある孤島に存在する。
後は流浪の男だけの民族ゼムカ。それよりは規模が小さくなるが2~3の民族が大陸の国とは別に独立政治を行っている。それらの民は、深い森や外れた島などに点在していて、ひっそりと暮らしているのだ。

そういう情勢下もあって、東の国には賊や犯罪者が好き放題にのさばり、東の国民は安心して暮らして行ける状態ではなかった。
そんな東の国に現れた若い武人。
別に正義感で行動していたようではなかったのだが(ただ煩わしい目の前の虫を潰しただけ、という)、賊や悪人に脅かされていた民にはもうこれでも充分な喜びであったのだ。
その武勇伝は先ほどもいったように尾ひれ羽ひれがついたかもしれないが、【暁の明星】という名を全国に広めた。
とにかく自分の名が意外にも世間に広まっている事に、当の【暁】は面倒だと少なからず思っていたようだ。
その証に決して自分から名乗りはしない。特に【暁の明星】とは絶対本人の口からは出るはずもなく。
それでもその強さとオーラ。知る人ぞ知る剣の【風神天】の紋章で、いつも他者に知られてしまうのだったが。

もちろん東国の近隣であり、一番情報が早いゲウラでも、彼の事を知らない者はいなかった。
しかも伝説の武人、として変に理想化されて隠れたファンがいるくらいに彼は有名だった。
   

その噂の主が何故か2年前この桜花の町に現れた。

もちろん初めはこの青年が【暁の明星】とは誰も気が付かなかった。

桜花の城下町はその時青嵐祭という、桜花楼の季節の祭りの真っ最中で、いつになく他国からの客人で賑わっていた。
中央の中立国であるが故のひとつの機能は“情報”である。
表立ってはいないが、各国の重要人物や果ては情報屋までが、この町で裏では大陸各国の機密などを情報交換しているのは暗黙の了解でもあった。
もちろん中立国で争う事はご法度のなため、裏で何事もなく情報交換をを人知れず行わうのが常識である。
特に祭りともなれば、どんな輩がどんな情報や厄介ごとを持ち込んだかなんて計り知れない。
なので意外にもお祭り時はトラブルも多い。
つい先程だって、敵国のスパイと通じた男がばれて強制退国直後に処刑されたり、酒場で女の取り合いして大乱闘になり入国拒否された輩がいたり・・・と、祭時はこういうお祭騒ぎも多いのだ。

その当時のヒヲリは若干はたちで【蕾】から【満桜】に昇進が決まり、【蕾】として最後のお勉めで城下にお供と来ていた。ヒヲリは各関係者と世話になった客に、挨拶も兼ねて城下町のある酒場に訪れた。

「おお、ワシの可愛いヒヲリ。【満桜】に昇進おめでとう。これからはめったに此処へは来れないのは寂しいが、【夜桜】を目指して頑張ってくれよ。期待しているからね」
歳はとうに70は過ぎているこの店のオーナーは、ヒヲリをまるで実の孫のように可愛がってくれた人だ。
実は親を亡くした七つのヒヲリが、このゲウラのはずれで彷徨っていたのを、この優しい老人が救ってくれたのだ。
温かい食べ物と清潔な着物を着せてくれ、ヒヲリは感謝の涙が止まらなかった事を思い出す。
此処では子供は専用の託児館に預けなくてはいけない所を、このオーナーが町の中央に掛け合って自分の元に置いてくれた。
それ以来、ヒヲリはオーナーのために幼いながらも店を手伝い、ここで色々な処世術を覚えたと言っても過言ではない。
しかしてヒヲリは成長するにつれ、絶世の美少女ぶりが人の目に留まるようになり、13歳で入城を勧められた。
普通は15歳から入城するのが常であるため、ヒヲリは異例であった。
もちろん、幼い美少女に早々と悪い虫が付かないように、早めに桜花楼の支配下に置いた方が彼女のためと思い、オーナ-は承知した。これでヒヲリに、屑のような男が寄ってくる心配もなくなるからだ。
異例のヒヲリはまだ15になっていない為、2年間、オーナーの元から城に通い、全てのマナー教養、芸事をみっちりと叩き込まれた。すでに彼女の才に気付いた桜花楼の最高支配人は、ヒヲリを最終的には最高級の【夜桜】に育て上げようと思っていた。
なので若干二十歳の【満桜】の誕生は、なるべくしてそうなったと言ってよかった。
年老いたオーナーも、最高の【夜桜】になれば、位の高い相手を選べるし、運がよければ王族の夫人になる事だって夢ではないし、そうなればヒヲリの人生は安泰だと、彼女の昇進を一番に喜んだ。
ヒヲリはオーナーに挨拶を済ませ、お供の老齢の【葉桜】と身の回りの世話をする後輩の【蕾】二人、警護の男一人に囲まれて、次の店に向かおうとした。

と、そこへ一人のずんぐりとした男が、酒を飲んでいるのかかなりの赤ら顔で、出口に向かうヒヲリたちをふさぐように躍り出た。
「ヒヲリ、あんたの事が好きなんだ。頼むから城に上がらないでくれ」
涙ながらに男はヒヲリの前に跪いた。
「ロダ!」
驚いてヒヲリは口を手で覆った。
この男は彼女が入城を進められる前から言い寄っていた近所の宿屋の使用人だ。
人好きのするヒヲリでも、この男だけはどうしても嫌だった。
いつもしつこく付き纏い、実はこの存在もあって入城を進めたとも言ってもいいくらいだった。
もちろん小心者でもあるこの男は、彼女の入城が決まってからはおいそれと言い寄ってくることもなくなったのだが、実はもう何年もくすぶる想いを溜め込んでいた。金も才もない自分には、ヒヲリが【満桜】になってしまったら、自分のものにする可能性は完全に失われる。そう思った時彼はいたたまれない衝動に陥り、酒の力を借りてでもヒヲリを強奪しようと思ったのだ。もちろんそれは死罪に値する。でも彼はヒヲリを失うくらいならどうでもいいと思っていたのだ。金も才もないロダではあるが、実は元傭兵で意外と力だけは強い。ただ変におどおどする性格が災いし、戦士としては不適切だったため何度もクビになり、この町に流れて来たということだ。
だが、酒の力とヒヲリ恋しさのあまり我を忘れたロダには、向かう敵はいなかった。

護衛の者が捕らえるよりも早く、ヒヲリは男に抱きかかえられてしまった。
あっという間の出来事で、皆が唖然とした瞬間、ロダは近くにあった酒瓶で、慌てて取り押さえようとする護衛に向けて鮮やかな手つきで振り回した。
「いや!やめて!誰か・・・」ヒヲリはもがいた。
だがもがけばもがくほどロダの腕の力は強くなる。
(く、苦しい・・・)
華奢なヒヲリには堪ったものではない。
息が浅くなり意識が朦朧としてきた。
急を感じた護衛は必死に男に掴みかかろうとしたその時、ロダは護衛めがけて力一杯瓶を振り下ろした。
もの凄い音がして、護衛の頭が血に染まった。
女の甲高い悲鳴が上がり、周りの男達は只ならぬロダの様相に恐れをなして皆その場から遠のいて行く。
「は、ははは、桜花の護衛なんて大したことねぇじゃないか!こんなことなら早くこうしてやりゃよかったよ」
得意げに口の割れた瓶を振り回す。
「やめんか、ロダ!こんな事してどうなるかお前は知っているだろ?ヒヲリを返すんじゃ!この娘を返せ!死んじまう」
オーナーの悲痛な声に、男は愛しいヒヲリの様子にやっと気付いた。
「おお、ヒヲリ、許してくれ」
ロダは少しだけ彼女を抱きしめていた力を緩めた。
コホコホッとヒヲリは軽く咳き込んだ。
今だ、と、オーナーは老齢の身体でロダの懐に入り込もうとした。
ところが調子に乗っているロダはすぐさま気が付き、持っていた瓶を放り投げ、オーナーの頭を鷲掴み、思いっきり投げ飛ばした。
「きゃぁぁ!オーナー!」
お供の者たちは泣き叫んだ。オーナーは軽く宙を舞い、大きな音を立てて隅のテーブルに落ちた。
「ふん、俺の邪魔するからだ」
ロダは吐き捨てるように言うと、今度はヒヲリを大事そうに抱え直し、鼻歌まじりに出口に向かった。
今の彼には向かう敵などひとりもいない、このままヒヲリを自分の物にできるという根拠のない自信に支配され、何も怖くなくなっていた。誰あろう、この俺様の邪魔などさせない。そんな感じでロダは気分が高揚していた。
と、彼がそのまま意気揚々と外に出ようとした時だった。

ガターン!

足元を遮るように、先ほどオーナーが落下して壊れたテーブルの破片が、ロダの目前に飛んできた。
邪魔をされたと思い、カッとしたロダは辺りを見回し大声で叫んだ。
「誰だ!ぶっ殺されてぇのか!!」
 ロダの目に入ったのは、人の引いたホールの中央より右端のテーブルで背を向け、何事もなかったかのようにひとり酌を傾けていた若い男の姿だった。
「お前か!!」
気が大きくなっていたロダはいつもの自分とは違い、挑むようにその男の元へ引き返した。
何事もなかったかのように、涼しげな顔をした男に、ロダは言い知れぬ怒りを感じた。
「貴様!いい度胸してるじゃないか。若造のくせに俺様の邪魔をするとは!」
「うるさい」
「何っ?」
「豚がビィビィうるさくて、美味い酒が飲めん」
「な、何だとぉー・・・」
ロダの怒りは頂点に達した。
我を忘れたロダは、ヒヲリを抱えたまま、男の胸倉(むなぐら)を掴もうとした。
と、その時。
男は無駄のない動きでロダの手をかわすと、身軽にテーブルの上に乗り上げた。
「な、生意気な・・」
わなわなとロダは男に食って掛かっていった。
今の彼はヒヲリの事など不覚にも全く忘れていた。いとも簡単に自分の攻撃をかわす男に夢中で、ロダは思わずヒヲリを宙に投げてしまった。
「あ」
と皆が息を呑んだその瞬間、若い男は優雅な身のこなしで宙を舞い、軽々とヒヲリを受け止めた。
ヒヲリは胸が高鳴った。
間近にこの男の端整な顔がある。
不思議な麝香の香りが、ヒヲリの鼻腔をくすぐった。
男はひらりと音もなく床に降り立つと、息を潜めてたお供の者たちの方へヒヲリを手渡した。
「あ、ありがとうございます・・・・」
ヒヲリもお供たちも、まるで夢を見ているかのようだった。

その様子に怒りを爆発させたロダは、床に落ちていた木の破片を手に取り、男の背に襲い掛かった。
「うぉぉぉぉっぉぉぉ~っ」
「危ない!」
思わずヒヲリは叫んでいた。

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暁の明星 宵の流星⑤

雷雲の言っている事はあながち嘘でもないが、かなり誇張されているようだ。

確かに【暁の明星】は、はるか動乱の東の国で知らぬ者は誰もいないほどの猛者である。
その噂は風と共に大陸全土を駆け巡り、その間に色々と尾ひれが付いて伝わったところもあったようだが・・・。

真実(ほんとう)のところはどうなのか。
それは当事者しかわからないだろうが、とにかく【暁の明星】は豪く強く、国政が安定していないほぼ無法地帯の東の国で数々と暴れまわった事は確かなようだ。

「とにかく暁の方は、大陸の中でも最も優れ、最強な武人や格闘家がいる聖天風来寺(しょうてんふらいじ)出身だというじゃねぇか。その中でも飛び抜けて強かったから、己の腕を試すために動乱の東方で武者修行に出たって事らしいよ。東では潰しちまった賊やら何やら凄い数らしい」

(全く雷雲ったら、あの方の話になると止まらないんだから・・・)
ヒヲリは苦笑した。自分の心はすでに階下に来られてるだろう、思い人に向かっているのに。
そんなヒヲリを知らずか、雷雲の話は止まらない。
「きっともう東の国であの方に敵う輩がいなくなったのさ。だから此処にいらっしゃったんだと思うんだ」

そうなのだ。
噂に高き【暁の明星】はふらり、と2年前この桜花の町にやって来た。
何の前触れもなく。
雷雲の妄想ではそのように片付けられていたが、ヒヲリは何故か別の理由でここに来たように思えて仕方がなかった。
実際、雷雲の話には少々間違いがあるかもしれない。
ヒヲリが別の客から聞いたのは、【暁の明星】はあまりにも暴れすぎて、手に負えなくなった聖天風来寺が追い出したという説もあるとか。
とにかく真実がどうなのか、それは関係者以外は知る術はないが。

そしてまことしめやかに囁かれるもうひとつの噂。
聖天風来を【暁の明星】と共に出た、恒星の双璧と呼ばれる人間がいたということ。
数々の武勇伝に、共に出てくるもう一人の人間の存在。
つまり、東で暴れていたのは【暁】だけではなかったのである。

しかし、その噂もある年ぷつりと消えてしまった。
噂されていた恒星の双璧のひとりは、いつの間にか存在がなくなり、ここ4年以上は【暁】の活躍ばかりが聞こえてくるようになっていた。姿を見たこともない他の国々の人間には、話題が上らなくなれば記憶が薄れるのは仕方がない。なのでここ何年かは【暁の明星】の話題で持ちきりだったのだ。

「わかったから、雷雲。時間に遅れてしまうわ。早く支度をさせて!」
「おおっと!すまん、すまん。じゃ、わしは先に行って暁の方を出迎えに行ってくるな。ヒヲリもがっつりめかし込めよ。きっと今晩もお前さんご指名だろうからな。はっはっは」
ヒヲリは顔を赤らめて軽く雷雲を睨みつけた。
「まったく、余計な事言わないで!」
「はいはい。
・・・・・・それにしても・・・」
行きかけた雷雲はふと再びヒヲリに振り向いた。
「なあに?」
「いや~・・・前から【暁の明星】の噂は知っていたが・・・。実物を初め見たときゃ驚いたなぁ。
数々の武勇伝から、わしはかなりの屈強の大男で、かなりいい歳の・・・」


「驚きました。あの有名な【暁の明星】殿が、こんなにお若い方とは!」

第一城内に入る手前の入り口で、受付を担当している若い守衛が感嘆の眼差しでアムイを見つめた。
「若いったって、俺はもう25も過ぎてるよ」
ぶっきらぼうにそう言うと、入城料を守衛に手渡し、ひらひらと片手を振って中に入って行く。
その隙のない背と身のこなしに見とれながら、守衛は思わず溜息をついた。
今まで猛者と呼ばれる戦士や武人の客を何人も見てきたが、どう見ても彼だけは特出している。

それは彼の優雅な身のこなしや、何故か気品を感じさせる佇まい。
その事が百戦錬磨の猛者という印象を与えないのだ。
すらりと背が高く、均整のとれた筋肉質な身体。
かといって着痩せするのか、ごついイメージはない。
そのしなやかな姿のどこが東の国で暴れまわっていた男だと見えようか。
加えて端整で精悍な男性らしい顔立ち。
黒く短く刈っている頭髪は前髪だけ少々長く、それが鋭さを秘めた黒い瞳を際立たせていた。
そして雷雲の言うとおり、数々の武勇伝からでは想像もつかない彼の若さ。

聖天風来寺を出るのは平均15年以上の修行を積んでからが通説で、普通入所するのも10歳からと決められている。もちろん入るための基礎体力や適正に当てはまった者しか認められず、厳しい試験があるのだ。それゆえに、入所15年は修行を完全に遂行すると、聖天風来側は合格者と契約を交わす。
もし本当に天下の聖天風来が手に負えなくて追い出したのだとしても、15年以上、という契約を簡単に反故してという事はあり得ないはずだ。
そういう通説のため、【暁の明星】の若さに皆驚くのである。
本当に異例中の異例なのか。
事実、アムイの持っている剣は、【風神天】という聖天風来の最高僧から贈られる紋が刻まれていた。
なので【暁の明星】が聖天風来と縁がないとは言い切れない。
しかも噂では、この別名もその高僧から貰い受けたのでは、とされていた。
そういう諸々な事が、実際の本人を目にした者の憶測と想像を招き、彼をますます神聖化していっているようだった。

そんな風情だから、まことアムイは女にモテた。
他の土地では知らないが、アムイを知る女たちからの人気は凄まじいものがあった。
ところが当の本人はというと、愛想がよいとは決して言えず、あまり感情を表に出さない寡黙な男であった。
まして女たちにお世辞を言ったり、口説いたりする姿を見たことがない。
そんな冷たさが、かえって女 たちの興味を惹き、男達にはその凛とした態度が好感を持たれていた。

彼が現れただけで、その場の空気が変わる。

彼を神聖化する者は、ほとんどが実物を拝んだ者だけだ。
若いのに他者を圧倒させるオーラ。
武人、という荒い気でない、ある種の王族が放つ独特の貴人の気を纏っているようだった。
世間一般ではよく知られていないが、格闘をかじった者なら知っているという武人の気
その中でも何年も修行しなければ習得は難しいとされる、神王ランクにもたらされる【金環(きんかん)の気】。
アムイ、もとい【暁の明星】は、なんとこの若さでこの気をすでに持っていた。
しかもその武人最高の気を戦いに惜しげもなく使う。
もちろん剣の名手であり、あらゆる戦術は身につけているが、多大な猛者たちを震撼させたのは、何と言ってもこの【金環の気】を凝縮した波動攻撃に他ならなかった。
普段はこういう武人の持つ気は表には出さないが、ある程度修行した武人にはその気を感じ取る事はできる。
その者が放つ気を感じ取り、それが誰であるかも、たとえそれが遠方であってもその存在を、上級者ならわかるのだ。

噂の東から来た男。

2年前、ふらりと前触れもなくこの男は桜花楼にやって来た。
最初は3ヶ月ほどに一度。
桜花に通うには多額の金がいる。
多分色々な所で無所属の用心棒などして金を稼いでは桜花に訪れているらしい。
それがここ、一年。
3ヶ月が2ヶ月に。2ヶ月がひと月に。
だんだんと頻繁に通ってくるようになったのだ。
しかもここ最近ではほぼ一週間毎にやって来るようになった。

その度に、中級娼婦であるヒヲリを必ず指名する。
城内の者は普通に考えて彼はヒヲリにご執心だと思っている。

だが直に接している当の本人はどうしてもそうとは思えなかった。
あの件でヒヲリの不安が的中した事もそうだが、アムイの頑なな態度には謎が多く、彼の考えが全くわからない。
それでも、とヒヲリは思うのだった。
かりそめでもいい。自分の一方通行の想いでもいい。
とにかく彼は数多の女性の中から、自分を求めてくれているのだ。
ヒヲリはその事だけに小さな希望をつなげていた。

あの2年前。
初めてアムイと出会った時から・・・・・。

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2010年1月25日 (月)

暁の明星 宵の流星④

その2.暁の男

大陸の中心にある小国ゲウラは、他国に囲まれているが故、昔から中立的な立場を保っている珍しい国であった。そのため、一民族・一国家が多い大陸の中でも多民族が入り乱れている独特な国でもある。
世界からいろんな国・民族の人間がゲウラを訪れ、商いや観光、遊びに永住と、ここでは敵同士であっても争う事は許されぬ、大陸の中で一番安全で平和な自由な国だ。

今春、ゲウラ国家誕生200年を祝う祭りで賑わいを見せるこの国の首都バンガのはずれに、女だけ集めた城、最高級娼婦がいる桜花楼がある。
桜花楼は唱館であると同時に、独特な自治で治められたひとつの町でもあった。
その町の中に入るには自由だが、中心に建つ桜花の城には許可証や招待状がなければ出入りができない。
それは中に住む商品の女達を守るためと、逃げ出さないための警備がとても厳しいことを意味している。
それでも桜花の女たちにまるっきり自由がないわけではなく、城下町に出るくらいは、許可を取ればできるのだった。しかしそれは最高級のランクを与えられた娼婦【上級娼婦・夜桜(よざくら)】【中級娼婦・満桜(みざくら)】あたりは商品価値が高いため、もっと自由は制限され、余程の事がない限り一般のお客の前に姿を現す事はない。
入城したばかりや、新人の【見習い娼婦・蕾】や中級に上がれなかった【下級娼婦・葉桜】は城下にて遊びに来ている客人の相手を気軽にできる身分であった。それでも見習いの【蕾】は客人に慣れる事という研修の一環も含まれているので、城下に出るときはお目付け役の先輩娼婦、もしくは城の下僕と同行する事になっているので【葉桜】よりは自由がない。

女が少ないこの大陸では、極上の女の自由を奪い、ある意味保護する事で、ある種の均衡を保っていた。
特にここ桜花楼のお陰で、ゲウラは中立国として存在できているといっても過言ではなかった。

桜花の城を取り囲むように、たくさんの桜が狂ったように花を咲かせる季節。
今年の春はいつもの春とは違っている。
ゲウラ建国200年を祝うお祭りだ。
このお祭り気分はひと月も続き、いろんな国からいろんな人間がやってくる。
桜花楼とて例外ではなく、いつもは警備の厳しい城内でも、金さえ払えば誰でも第一城内(ここは中級娼婦までお目にかかれる)で開かれる宴の席で楽しめるようになっている。

今宵も日が暮れると同時に酒宴が始まり、女たちの煌びやかな舞や歌が披露され、それはまるで夢のような時間が訪れるのだ。
そして中には、心慕う客人をその宴に来る事を心待ちにしている女も少なくなかった。

【満桜】であるヒヲリ(ひをり)も例外ではなかった。
この第一城内において、その美貌と気立ての良さで入城してからあっという間に【満桜】に昇り詰めた。
もうそろそろ【夜桜】になってもおかしくない、とまで言われている。

ヒヲリはそろそろ始まる宴のために、緩やかに艶やかな絹糸のような髪を結い始めた。
彼女の部屋の窓からは見事なまでの桜の花が風にそよいでいる。
思わず小さな赤い唇からほっと息が漏れる。

今まで色々な男性と会って来たが、こんな気持ちにさせるような男はいなかった。
しかも自分が客人である彼を、こんなに待ち侘びようとは思ってもみなかった。
あの方は他の男とどこか違う・・・。
ヒヲリは何度となく“あの方”に抱かれた事を思い出す。
女である自分を求め、その激しさに彼女の心は悦びに震える。
だけどその反面、幾度となく商売とはいえ肌を重ねてきたのに、一向に彼の心は閉ざされたままであった。
そう、職業上彼女は肌で感じ取っていた。
激しい行為の後、ヒヲリが気付くといつも彼は床から抜け出てこの窓の桜を虚ろに眺めている。
彼の眼差しの先は桜ではないような気がいつもしていた。

(あの方には誰か想う方がおられる・・・・)
その事がヒヲリの胸を掻き乱す。

それは幾度も抱かれるたびに感じていたことだ。
自分を求めているようで、本当は違う。
こんな事、商売上思ってはいけない感情なのに、彼に逢える嬉しさと共に虚しさと切なさを感じている。
その気持ちを抑えきれなくなって、2ヶ月前、思い余って男に訊いてしまった。

「私のこと、どうお思いですか?」

そんな事を商売女に訊かれた事なんてなかったのだろう、男の目が不思議そうに見返してきた。
「お前さんはいい女だよ」
「・・・少しは・・・私を好ましく思ってくださっているのでしょうか・・・」
「何でそんな事を訊く?」
「・・・・・いつも可愛がってくださるのは・・・嬉しいです・・・。でも・・・」
ヒヲリは思い切って言った。
「貴方の心の奥には、どなたかがいらっしゃるのですか」
「!!」
突然男の顔色が変わった。
黒い瞳にうっすらと悲嘆と怒りが混ざった感情が映し出され、微かに瞳の奥が赤く染まったように見える。
そして身体の震えを抑えるかのように、男は彼女の傍らのシーツの端を掴んだ。
まるで何かの衝動を堪えているようだった。
そしてしばらくして口の端から声をゆっくりと搾り出した。
「お前には関係ない」
その声の冷たさに、ヒヲリは言ってしまった事を後悔した。
彼の触れてはいけない何かに、触ってしまったようだ。
「ごめんなさい・・・・。変なことを言ってしまったわ・・・。本当にごめんなさい・・・」
思わず零れたヒヲリの涙に男は小さな溜息をつくと、
「また来る」
と、無駄のない動きで身支度を済ますと、何も言わず彼女の元から去った。

そんな事があったのだから彼はもう自分の元には来てくれないだろう・・・という、彼女の不安は杞憂に終わった。

男はまた10日程してふらりとここに訪れ、いつものごとくヒヲリを指名した。
そして何事もなかったかのように、男はヒヲリを抱いていく。
ヒヲリはまた通ってくれる事に嬉しさを感じながらも、男が何かを待っているような気がしてならなかった。
それとも何かを捜している・・・・?

いやいや、これ以上“あの方”を詮索するのは止めよう。
最近は頻繁に自分の元へ通って来てくれているではないか。
ヒヲリは彼を失いたくなかった。
自分をただの商品としか見ていなくても、自分に心を開いてくれなくても、男が自分に触れてくれるだけでいい。
ヒヲリは自分の激しい感情を心の奥に仕舞い込んだ。


「ヒヲリ!ヒヲリ!」

【満桜】の番頭、雷雲(らいうん)の野太い呼び声でヒヲリは我に返った。
「いきなり何?びっくりするじゃないの」
ヒヲリは手に持っていた櫛を置き、興奮気味の禿げた大男に振り向いた。
「ヒヲリ、今第一城内からの連絡があって、あの方がいらっしゃったと」
どきん、と心臓が高鳴った。
「いや~、もう第一城内の女どもが色めき立っちゃって、大変な騒ぎだ。あの方が来るとすぐにわかるなぁ」
「まぁ、もう?少し早いのでは」
「今宵は無礼講だからな・・・。宴会をお楽しみにしておられるんだろうよ。
・・・それにしても・・・。
いつもながらにいい男っぷりだ。精悍であんなに腕っぷしもよくて、なのにどこか気品があるなんて、なかなかいないぞ。男でも惚れちまいそうなくらいなんだ。女たちは一溜まりもないわな」
カッカッカッ、と豪快に笑いながらも雷雲は落ち着かない。

ヒヲリはいつもながら珍しい、と思う。
普段客人の事はお金としか思っていないあの雷雲が、お金以外で客を褒めるなんて。
「雷雲はあの方を気に入ってるのね」
ヒヲリの言葉にニヤリとしながら雷雲は言った。

「何を言う。暁の方は東から来た伝説の武人じゃないか。
お前さんだって知ってるだろう?あの有名な・・・。

動乱の東の国での数々の武勇伝!
【暁の明星】と異名を称する、天下のアムイ・メイ様だからな!」

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2010年1月17日 (日)

ちょっとブレイクです

ここまでお読みいただいた方、お疲れ様でした。
稚拙な文章にお付き合いくださり、本当にありがとうございます。

実はまださわりなのに、もうすでに何回も躓いていました・・・

自分の文章力のなさに、ぶっつけで書くことの恐ろしさに(大げさ)ほんっとうに苦しみました・・・・

今からこんなんでいいのでしょうか(いや、よくない)
これからまだずっと続くので(マジですか~)ちょっと眩暈してしまいました(情けない)

②はとにかくちゃんと見直ししてからアップする事ができなかったため、何回も訂正してしまいました

③はパソコンが調子悪かったり自分のミスなどで、2度も中盤で文章が消え(ううう)3回目でやっと書き上げましたとにかくぶっつけで書いていたため(下書きはありません)記憶を辿りながらの書き込み。内容は変わらないけど、文章表現が3回とも違っていた・・・という結果。自分にとって大変でしたが、いい勉強になりました。

とはいうものの、当分このスタイルは変えるつもりがないので(この作品にいたっては)こまこま書いてそのつど保存、という形でいこうかと思っております(^-^;

そのうち、キャラや設定をまとめた物をアップする予定です。
・・・・ちょっと、人物が多くなってしまいそうなので・・・・。

実は始めた当初は話の軸がまだ自分に降りてきてない状態でした。
キャラと設定はあったのですが。
こんな状態で無謀な事をするな~と思いましたが、この未知数なところがどうなって行くのかが自分としても面白いかも、なんて思ってしまったので・・・・(す、すみませんっ)
しかし不思議なもので、始めたら次々妄想が膨らむ(笑)
やっと物語の着地点が見えてきました。始める前はほとんど前に進まない状態だったのですが。
これが上手く活性してくれるといいのですが・・・。

こんな感じの作品なので、どうぞお気軽にお読みいただければと思います。
いえ、もっといい作品がたくさんある中で、自分のを読んでくださるだけでも本当にありがたい事です


そろそろメインに移って参ります。
もうしばらく、お付き合いの程よろしくお願いします。
(もちろん強制ではありませんよ~

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暁の明星 宵の流星③

「私、これからどうなるの?
殺されてしまうの?
・・・それともまたあそこへ連れ戻されてしまうの?
私・・・私・・・・やっとの思いで逃げ出したのに・・・・」

イェンランの愛らしい黒い瞳から涙がこぼれ、綺麗な雫がポタポタと彼女の膝の上に落ちていく。
その様子にいたたまれなくなったキイは、そっと彼女の傍に跪くと、優しく抱き寄せた。
ふわりと甘い花の香りがする。
それは故郷に咲く、名も知らぬ白い花の香りに似ていた。
懐かしさを感じさせる香りに、うっとりと彼女は彼に身を委ねる。
(温かい・・・)
彼の優しい波動に、先程まで支配していた恐怖がどんどん薄れ、癒されていくようだ。
「お嬢ちゃんはいくつだ?」
「十五・・・・」
「そうか・・・」
キイはイェンランが宵闇のようだと感じた深い声で、ゆっくりと囁いた。

「お嬢ちゃん。
女として生まれた事を呪ってはいけないよ」

思いもかけない言葉に驚いてイェンランは顔を上げた。
その先には切なくも慈愛に満ちた瞳が自分を見下ろしていた。
イェンランの鼓動は早鐘のように打ち、息が詰まりそうになった。

「生きろ、お嬢ちゃん。
どんな事をしてでも生き延びろ。
それが今現在、自分の意に沿わない場所だとしても。
厳しくても、苦しくても、生きていればきっと希望は見えてくる。
この世に生まれて、意味のない人間なんていない」
それはイェンランに言っているようで、まるで自分に言い聞かせているかのようだった。

そして何を思ったのか、自分がしていた虹色の石を数珠状につなげたブレスレットを外し、いきなり繋げていた糸を引き千切った。
驚いたイェンランは声もなくキイの様子を伺う。
彼は素早くその虹色の石の一粒を彼女の手に握らせ、残りの石を自分の懐に仕舞った。
そして戸惑う彼女に微笑み、そっと耳打ちした。
「お守り」
「え」
「こいつは君を守ってくれる。持っていきな」
イェンランの掌の上で、親指の先ほどくらいの玉石が柔らかな光を自ら放っていた。
「きれい・・・・。これを持っていたら、あなたにまた会える?」
「・・・はは。そうだな。こいつは自分の仲間を恋しがるから、君が大事にしてくれれば、きっと」

「何してる!キイ!」
突然後ろからアーシュラの声が飛んだ。
「さ、早く仕舞って!」
キイは彼女を促すと、さっと立ち上がりアーシュラの元へ戻って行った。

「何をあの女と話していたんだ」
アーシュラは苛立つ声で吐き捨てるように言うと、ぎろりとイェンランを睨み付けた。
「あの子の足の様子を診ていたんだ。やはり動けそうにもないから、誰か運んでやんねぇと」
「そんなことは、桜花楼の連中がするだろうよ」
かなりの機嫌の悪さに、キイは肩をすくめ、やれやれという顔をして言った。
「わかったよ。お前の顔を立てて、俺はどっかに隠れるよ。これ以上俺の存在を他の連中に知られちゃ困るんだろ?その代わり、ちゃんとあの子が保護されるまで見張ってるからな」


それからしばらくしてイェンランは迎えと共に、一行の群れに戻された。
桜花楼は多大な礼金をゼムカに支払い、そして彼らは跡形もなく消え去って行った。
イェンランは全てを納得した訳ではなかったが、キイの言葉と虹の石を胸に、「生き抜こう」という意思を固めた。
どんな場所でも、自分は生き延びる。
そしていつかは力を付けて、この生きた牢獄から自由になってやる。
このときのイェンランには、それが生きるための活力だった。

ただ、とイェンランは思う。
ここに来てもうすでに3年・・・。
あの時のあの人は「女として生まれた事を呪うな」と言ったけれど、この場所では到底無理だった。
我慢して男達の相手をしてきたことが、虚しさと怒りをどんどん膨れさせていく。
女として生まれた事に憎しみすら感じてしまう。
だからなのか。
最近本当によくあの人の夢を見る。
初めて男を経験した時も、その後そういう行為をさせられる度に、イェンランは虹の石を手に握り締め、この相手が彼だと思い込むようにしていた。
辛くて苦痛なその時間も、そうすれば多少気持ちが紛れ、我慢する事ができた。

最初の人が、彼であって欲しかった。
そしてもう一度彼に逢いたかった。

自分はあの時、恋に落ちたのかもしれない。
当時は子供過ぎてよくわからなかったけれど。

宵闇はイェンランを感傷的にさせる。
気が付くとうっすらと西の方向に明るさが戻りつつあった。


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2010年1月15日 (金)

暁の明星 宵の流星②

「そこをどけ、キイ!女を斬る!陛下の命令だ。
どのような人間でも、お前と接触する者は切り捨てろ、と」

アーシュラというゼムカの戦士はそう言うと、
背に挿した大きな剣をいきなり抜いた。
イェンランは青白く光る刃の光に気が遠くなりそうになった。
身体に力が入らない。

その言葉にキイは反射的にアーシュラの正面に立ちはだかった。
まるでイェンランを守るかのように、彼女を自分の背中ですっぽりと隠した感じで。

その様子に何故かアーシュラは逆上した。
「どけ!!」
アーシュラは自由になっている片方の手で、キイを押し退けようと突き出した。
イェンランは恐怖で二人の男の姿を見る余裕などなく、只がたがたと震える事しかできなかった。

自分はやはりここで殺されるのか。

イェンランに絶望の思いが走る。

あのまま、素直に桜花楼に連れて行かれればよかったのか。
ああ、だけど。
そうして自分の意に沿わぬ運命のまま生きるなんて。
生きている意味などどこにあるのだろうか。
だから一か八かの賭けに出た。
しかしもう、その賭けすらも自分は負けたのだ。
私は天からも見放されたのだ。

アーシュラの突き出した手を、キイは無言で跳ね除け、そのまま反射的に掴んだ。
「キイ、離せ!」
憤るアーシュラとは反対に、キイの表情は穏やかだった。
「ザイゼムに何を言われたか知らんが、この子を斬る事は俺が許さねぇよ」
優しげで、また断固とした強さを感じさせる声に、アーシュラの動きが止まった。

「アーシュラ、この子の着衣を見ろ。桜花楼の紋入りの生地じゃねぇか。
この世界では子供を産む女は希少価値。
しかも最高峰の女を集めてるといわれる天下の桜花楼。
お前さん達だって色々と世話になってるだろうに・・・。
しかもこんな少女を殺るなんて、未来の宝を潰すと同じだ」
「・・・・・」
「それにこんな子と接触したからって、何て事ないじゃないか。
身元がちゃんとわかってるんだから。
この子を見つける前、桜花楼の護衛に守られた一行が南に下って行ったのを見た。
きっとその群れからはみだした迷子だ。
彼女を返してやれば、お礼金ががっぽりもらえる」
「そうかもしれんが、キイ・・・」
アーシュラの納得しかねる表情に、キイはわざと自分の顔を近づけた。
アーシュラは動揺した。
「昔馴染みだろ、アーシュラ」
その深い声色に、アーシュラの力が抜けた。振り上げた剣を意思に反して下げてしまう。
昔から彼の囁く声には抵抗できない。
悔しいかな、彼の声には何かしらの魔力が宿ってるようにしか思えない。
「なあアーシュ。この子足に怪我して動けねぇんだ。俺が連れて行っていいよな?」
その言葉にアーシュラは我に返った。
「いや、それはだめだ!」
青ざめた顔を覗き込みながらキイはますます艶っぽい声で囁き
「俺が逃げるとでも?・・・・・こんな状態なのに?」
と、己の前髪をかき上げ額を露にした。
美しい形の額の中央には、黄色い光を放つ小さな球体が埋め込まれている。
「まったくお前の王様は・・・。俺様をこんな物で封印するとはよ。
そのお陰で俺の力はほとんど封印され、自分の気すら放つ事ができないんだから。
だからさ、お前とザイゼムが心配するような事は皆無だろ」
しばらくアーシュラはキイの顔を無言で見ていたが、はき捨てるようにこう言った。
「いや・・・。やはりだめだ。この娘はお前の提案で斬るのはやめにするが、これ以上接触する人間ができるとまずい。今私が使いの者を出す。桜花楼の護衛に引き取りに来て貰えばいいだろう。それでいいな」
キイの瞳に安堵の色が浮かぶ。
その様子に腹立だしさを感じながらも、アーシュラは自分の部下を呼び出そうとキイから離れた。
自分達の一族しか聞こえない笛を取り出し、仲間のいる方角に吹く。
すると何処ともなく、一人の戦士がアーシュラの前に現れた。

二人が手配のやり取りしている隙に、キイは背後で小さくなって震えてるイェンランを振り返り、彼女のそばへ急いだ。

死を覚悟していた彼女は、一向に何も起きないことを不思議に思いながら、ところどころ聞こえてくるキイとアーシュラの会話に耳を傾けていた。
男二人の低い声は森にかき消され、イェンランの耳にはっきりした内容は届いていなかったが、自分の身の振りを話し合っているということはわかった。
最後の「桜花楼の護衛に・・・」というところだけはかろうじて聞き取れた。

そっと自分に近づくキイにイェンランは怯えた瞳を向けた。

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2010年1月10日 (日)

暁の明星 宵の流星①

その1・宵の男


「金環(きんかん)の気配がします。・・・・・アムイの気配が。
陛下、今年の繁殖期は気をつけられた方がよろしいかと」

すでに就寝していたゼムカ族の王ザイゼムは、薄明かりの中、寝所から薄いローブを羽織りながら声の主まで近寄った。
「という事は、アーシュラ。奴は我々の事に気付いたのかもしれんのか」
自分の寝室の扉に現れた若い戦士、アーシュラの前に立ちはだかったザイゼムの声は、不機嫌な様子を帯びていた。
「御休みのところ申し訳ありません、陛下。今までにない強さを感じましたので・・・・・」
イライラした様子でザイゼムは手を自らの顎に持って行き、何か考え込むように眉間に皺を寄せた。
その様子をじっと窺っていたアーシュラだったが、ふとザイゼムの寝所で人が動めく気配を感じ、視線をそこに移した。
広く大きな寝台のシーツの中で、一人の若い青年の寝姿が見えた。
見えうる限り、一糸纏わぬ姿。長く艶やかな茶色の乱れた髪から覗く白く端正な横顔。
アーシュラの心は締め付けられた。

「何を見ている、アーシュラ」
その様子に気付いたザイゼムの怒気を含んだ声が飛んだ。
「いえ、別に」
何事もなかったかのように淡々と答え、アーシュラは頭を垂れて自分の絶対的な王の寝所を後にした。
しかし心では嵐が吹き荒れていた。
ザイゼムにはアーシュラの気持ちはよく分かっていた。

(だが、アーシュラ)
ザイゼムは口元に卑しみの色を浮かべながらも、寝所に戻り、自分の寝床にうつぶせになって寝息を立てている彫刻のように美しい全裸の男を満足げに見下ろした。

(キイは私のものだ。やっと手に入れた私の宵の流星。
解放なんてする気もないぞ。
誰にも渡す気もない。
アーシュラにも、無論アムイにもだ)
ザイゼムは不敵に微笑んだ。


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イェンランは女として生まれた事を呪っていた。
激しい怒りも感じていた。
気の強い、綺麗な顔が歪み、ずっと涙を堪えていた。

娼館でもある女だけの砦で暮らしてすでに3年。
彼女の気持ちはどうにもならないところまできていた。

イェンランは親に金で売られた。

確かに家は貧しかった。
兄弟もたくさんいた。
この世界では子供を産む女は貴重だ。
だが、この大陸では女の人格など無きに等しい。

男世界中心のこの大陸には5つの国があり、8つの民族がいる。
イェンランは大陸の北にあるモウラという国で生まれた。
8人兄弟の中で、生まれた女の子は彼女だけだった。

貴重な女、しかも器量の良い娘は高く売れる。

大陸の中心にある小国ゲウラのはずれに、女ばかりを集めている城がある。
桜花楼(おうかろう)と呼ばれるその場所は、言ってみれば最高級の娼婦達が住んでいる。

男の欲求を満たし、または子供の欲しい高い身分の男達のために子供を提供する。
ここに集められる女たちは容姿はもちろんのこと、全てレベルが高くなくてはならない。
ここに価値があると認められ、高額な値のついた少女は一生華やかな生活が保障され、その家族も一生優遇される。
もちろんここでトップの女は世の権力者にも影響を与えられるほどで、それが女としても仕事としても誇りとなっていた。もちろんあわよくば豪族や権力者に身受けされ、女王のような生活をする者もいた。
だが所詮は唱館の出。
血統の良い婦女子に敵うわけでもなく、いくら贅沢で安泰な生活ができるといっても所詮地位としては低い。
それでも貧しい女の唯一、二の出世の方法であった。

そのような環境もあって彼女の心は虚しさに溢れていた。
こんな囚人のような生活。
男の機嫌ばかり取っている生活が苦痛でならなかった。
彼女は自由に憧れていた。
故郷のはるか続く高原を思いっきりかける夢を最近よく見るようになった。
ただそれだけではなく、イェンランには忘れられない思い出がある。
それが最近高原よりもよく夢に出てくる。


3年前
自分がここに連れて来られるその途中、決死の覚悟でそこから逃げ出した自分。
なのに深い森で足を取られ、怪我をしてしまい途方にくれていた心細い自分。
それを助けてくれたひとりの若い戦士。
顔をすっぽりと被った鳥獣のマスクでその戦士が男だけの一族ゼムカの人間だとすぐにわかった。

ゼムカ族は凶暴にして絶対的な力を誇示する民族として、他の国の者から恐れられ有名だった。
だからイェンランも初めは恐怖に慄いた。
金品のない自分なぞ、暴行されるか殺されるか、はたまた連れて行かれ売られてしまうか。
その戦士が近寄ってきたとき、恐怖で身をすくめた。
「お願い・・・殺さないで・・・」
自分の声が自分ではないみたいに上ずっている。
だがその戦士は何も言わず、そっと彼女の足元に跪くと、怪我した足首に自分の手をあてがった。
イェンランは驚きで目を見開いた。視線が自分にあてがわれた白い手に釘付けになる。

長くて形の良い綺麗な指・・・・。

傷口から暖かいものが流れてくる感覚と同時に、彼女の心までも日の光を浴びたようなうっとりした感覚になっていく。気が付いたら痛みが完全になくなっていた。

「あ、あの・・・・」
乾いた自分の口から、やっとの思いでかすれた声を絞り出す。
「ど、どういう・・・。あの、今何を・・・・」
かなり混乱していた。
その様子を察した男は、すっと音もなく自分のそばから少し離れると、おもむろに顔のマスクを静かに取った。

「!!」

その禍々しいマスクの下から溜息が出るほどの整った美しい顔が現れた。
この世にこんな美しい人がいるのか、とイェンランは小さく感嘆の声を漏らした。

歳の頃、20も半ば位か。
すっとしたバランスの取れた長身に白い肌。
艶やかに垂れる長いブロンズの髪。
細面の顔に大きな切れ長の黒い瞳。形の良い高い鼻にふっくらした唇。
それに加え心を奪われたのは、かすかに微笑む彼の瞳の輝きだった。
笑うと少し目尻が下がって柔和で可愛らしい雰囲気になる。
だがそれが女性的というわけでなく、男性らしい色香も醸し出していた。

「大丈夫?」
このやもすると中性的にも見える容姿に似合わないような低くて深い声。
まるで宵闇のようだわ、とイェンランは夢見るように思った。

「悪かった、怖がらせて。最初に仮面を取ればよかったね。
今、痛みは抜いたから、あとでちゃんと処置して。
怖がらなくていいよ。君を取って食おうとはしないから」
笑いを含んだ声に、自分の心が解けてゆくのを感じていた。
「ね、ね、今の何?
何の治療?おまじない?
すっごく痛かったのよ、私。
歩けないくらいだったのに!
もしかしてあなた魔法使い???」
イェンランの言葉に思わず噴出しながら
「そんなんじゃないよ」
と、男は満面の笑顔になった。
その笑顔に強く惹かれながら、イェンランは恐る恐る質問した。
「もしかして・・・。ゼムカの人ってそういう力皆持っているの?」
一呼吸置いて彼は答えた。
「・・・いや、俺だけだ。こういう力使えるのは・・・・。」
そしてしばらく思いを巡らした様子で沈黙した後、つぶやくようにこう言った。
「・・・本当は元々ゼムカの人間ではないから・・・」
その言葉に衝撃を受けたイェンランが再び問いかけようとした時、

キィーン!!!

突然、向かい合った二人の間をかすめるように、鋭い音を立てて矢が飛んできた。

はっと身構える二人に鋭い声が響く。
「女!!キイから離れろ!近づくな!」

「アーシュラ!!」
強張った表情でキイは声の方に向き直った。

イェンランも恐怖に顔を引きつらせながら、アーシュラという男の姿を見た。

キイと同じく、細身で背の高い黒髪の戦士。
端正な顔立ちであるがキイとは対照的なぎらぎらした鋭い目。

イェンランはその場に凍りついた。

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