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2010年2月22日 (月)

暁の明星 宵の流星 #24

一通り仕事を終わらせ、サクヤは色々準備を始めていた。
とにかく宵の君がどのような状態なのか、まだわかってはいない状況だ。
何とか上手く気づかれなければ、これからアムイ達と落ち合って、ここから外に出るために色々部屋に細工をしなければならない。そう、このままこっそりと外に出るため、ベランダに細工を・・・・。
と、ここまで思い巡らせているときに、耳のいいサクヤは、人の喧騒が微かに聞こえてきたのに気づいた。
その方向は・・・・。
サクヤはびくっとして振り返った。
(気づかれた!?)
彼は青くなって、アムイ達のいる部屋へと急いだ。


「兄貴っ!!」
サクヤは息を切らせて敵に先回りして部屋の中に滑り込んだ。
「やばい!相手に見つかった!」
アムイはキイを抱く力をさらに強めた。
キイはまるで糸の切れた操り人形のようにぐったりしている。
イェンランもヒヲリも青くなってその場に凍りついた。
「とにかく皆、隣のベランダの方に移動して・・」
と、サクヤが叫び、アムイはキイを担ごうと体を起こした、その時だった。

ヒュッ!

アムイの髪をはらりと一房を散らして、鋭い矢が彼の顔を掠めて飛んで来た。
矢は鋭い音を立てて、イェンラン達の方向にある壁に突き刺さった。
サクヤは慌てて、イェンランとヒヲリを守るために彼女達の元へ急いだ。
そして二人を庇いながら、なるべく隅の方へと誘導する。
「ここにいて」
サクヤは二人にしゃがむように指示した。
そしてアムイは、矢が放たれた方向を凝視して凍りついた。
「お前・・・・」
「キイから離れろ、アムイ!」
入り口からアーシュラが弓を構えて入ってきた。
「お前、アーシュラ!!どうしてお前が・・・」
アムイは驚きのあまり、動きが彼よりも一瞬出遅れてしまった。
アーシュラは弓をかなぐり捨て、背中から剣を抜いた。そしてそのまま勢いよくアムイめがけて振り下ろした。
そのためアムイはキイを手放さなければならなかった。
急いで自分も腰の剣を抜き、アーシュラの剣を受け止めた。

キィーン!!!

金属音がぶつかる音に、イェンランもヒヲリも恐怖で顔を覆った。
アーシュラの背後から戦士達が入ってくるのを見たサクヤは、自分も隠し持っていた短剣を取り出すと、敵に向かって行った。

アーシュラとアムイは剣と剣を交えながら、お互い睨み合っていた。
「何でお前がここに・・・」
「やはり来たか、暁。何年ぶりだよ」
「そうか・・・。お前の継ぐ家業って・・・。武道場じゃなかったんだな。お前、ゼムカの人間だったのか」
アーシュラは力一杯アムイの剣を跳ね返す。
アムイは何とか持ちこたえ、体制を整えた。
その隙を与えまいとして、アーシュラはアムイに大きく振りかぶる。
アムイは間一髪、それを避けて転がった。
「同期のお前なら俺の気を判別できるのは当たり前か」
アムイは唇を噛み締めた。
「ああ、聖天風来寺にいて、よかったと思ってるよ」
アーシュラは自嘲気味に笑った。
そしてアムイを追い込もうと剣を付きたてる。
アムイはそれを軽く払いながら壁の方に追い詰められていった。
アーシュラは期間限定で聖天風来寺に八年在籍していた、特待生だった。
なのでそこいらの雑魚とはまるっきり腕が違う。
この【暁の明星】でさえ、はっきり言って苦戦する相手だ。
「どういうことだ!」
アムイは剣を剣で受けながら叫んだ。
「お前ら、キイに何をしたんだ」
その言葉にアーシュラが反応した。
「何でお前がここにいて、キイがあんな状態なんだ!!」
その言葉にアーシュラの顔が苦痛に歪んだ。
「・・・・守りたかった・・・」
アムイは目を見開いた。
アーシュラは暗い目をして、歯の隙間から声を絞り出すように言った。
「俺はキイを守りたかったんだ・・・!」
アムイは絶句して、彼の悲痛な声に固まった。
その様子にアーシュラは再び剣を突き立てると叫んだ。
「俺はお前が嫌いなんだよ!!」
ガッ!!と鈍い音を立て、アムイが追い詰められていた壁に剣が刺さった。

「兄貴!!」
多数に応戦していたサクヤが叫んだ。
アムイがはっとしたその時だった。
「そこまでだな、【暁の明星】」
低い、威厳のある声が窓辺の方から聞こえてきた。
アムイは舌打ちした。
それは窓を背にし、キイを抱き抱えているザイゼムの姿だった。
二人が接戦しているときに、上手い具合に彼はキイを奪い戻したのだ。
「残念だったな、暁。宵は返してもらう」
アムイは初めてゼムカの頂点に立つ男を見た。
威厳のある、でもどこかしら野生の匂いがする男。
(こいつがキイを・・・)アムイは歯噛みした。
「お前は私を初めてだと思うが、私はお前を知っていたよ」
ザイゼムはニヤリと笑った。
「あの青臭い小僧が、なかなか上手い具合に育ったじゃないか」
その言葉にアムイはかっとした。
「お前らキイに何の用があるんだ!返せ!俺に返してくれ!!」
「俺に・・・?」
アムイの言葉にザイゼムは嘲笑した。
「笑わせるな。これは私のものだ。お前はこのザイゼムから宝を奪おうとした只の盗人」
そう言いながら、ザイゼムは片手で持っていた剣をアムイの目の前でちらつかせた。
「アーシュラ、こいつはお前に任せた。私はここを出る」
ザイゼムが剣を構えながらキイを担いで部屋を出ようとした時だった。
アムイの目が赤く、赤く燃えるように色付き始めた。
体全体の細胞が、徐々に沸騰した泡のようにアムイの体を沸き立たせていく。
それが段々と上に昇っていき、心なしか髪が少しづつ逆立っていく。
「兄貴ッ!!いけない!」
サクヤが叫んだ。
「ここで波動を出しちゃだめだ!!」
しかしもうここまで来たら、アムイの気の凝固を止める事はできない。

アムイの体から赤い閃光が走った。それは大きなうねりを生じ、周りの空気を巻き込んでいく。

ガガーン!!!

アムイの波動は寝室の窓を軽々と吹き飛ばしたのだ。


周りのものは慌てて、崩れる壁から身を守ろうと体を屈めた。
立ち昇る土煙が消えた後、ザイゼムとキイの姿はもう既になかった。
アムイは後を追おうと扉に走った。
それを遮るようにして、アーシュラがアムイの前に立ちはだかった。
「どけっ!アーシュ!!」
アーシュラはアムイの胸倉を掴み顔を近づけた。
「通すわけにはいかない」
アムイはアーシュラの手を引き剥がした。
「このっ・・・!!」
アムイは拳を突き立てた。それをアーシュラはぎりぎりの所で避け、近距離で小さく凝縮した気をアムイに放った。

ドゥン・・・・!

鈍い音を立てて、アムイの体が吹っ飛んだ。
いくらアムイでも、凝縮した気を至近距離で放たれたら一溜まりもなかった。
「くっ・・・・!」転げたアムイは鈍く痛む脇腹を押さえてアーシュラを見上げた。
「馬鹿だな、アムイ」
アーシュラは言った。
「お前、本当にキイの事になると冷静さを忘れるんだな。
隙だらけだよ。
何が【暁の明星】だ。笑わせるな!」
そう吐き捨てると、アーシュラはアムイに背を向け、歩き出した。
「アーシュラ!!」
アーシュラの足が止まった。
「何でだ?アーシュ・・・お前・・・。お前キイの友達じゃなかったのかよ!」
その言葉にアーシュラのこめかみがピクリと微かに動いた。
「友達?」
そして彼は喉の奥で笑うと突き放すように言った。
「違うよ」
彼と他の戦士達は、そのままアムイ達を残して、潮が引くように去って行った。
アムイは怒りと悔しさで、思いっきり床に自分の拳を打ち付けた。

「兄貴!大丈夫?」
サクヤは転がるようにしてアムイの傍に駆け寄った。
「くそ・・・!アーシュの奴・・・!」
「兄貴まずいよ!このままだとこの騒ぎで桜花楼の人間もやって来る!早くここから出ないと!」
サクヤはアムイに肩を貸しながら、ベランダの方に向かおうとした。
「追いかける」
「えっ!?」
「キイを・・・俺はキイを・・・あいつらを追いかける!」
サクヤは絶句してアムイの顔を見ていたが、何か決心したような顔をして小さく頷いた。
二人がアーシュラの後を追って、扉の方向に向かおうとしたその時、
「待って!」
今までイェンランと、恐怖のあまり小さく震えて、部屋の隅にいたヒヲリが立ち上がって言った。
「きっと王達は貴賓室専用の隠し通路で、城外に出るつもりだわ」
アムイは驚いて彼女を見た。
「そんなのがあるのか・・・」
サクヤもびっくりして彼女に言った。
「ええ。ここの貴賓の間には、そういう色々な事情で、抜け道を用意しているの。だからすぐにあの人達はここを出て行ってしまう!誰にも気づかれない道を通って!」
「正攻法で追っかけても、もう既にこの騒ぎは桜花楼に伝わっているわよ。きっと護衛が今頃正当な通路を封じている!」
イェンランもヒヲリの言葉を受けて叫んだ。
「じゃ、どうしたらいいんだ・・・」
サクヤは顔をしかめた。
「やはり外から出た方がいいかもしれない」
ヒヲリは言った。
「前に世話になった【夜桜】の姐さんに聞いた事があるの。昔ここの庭番と恋仲になった【夜桜】がいて、その逢瀬のために、第二城内にある・・・つまり、ここの下なんだけど・・・広間外れのベランダから抜け道を密かに作ってこの裏手にある庭に通じる通路を作ったらしいの。それが見つかって、その入り口には鉄の格子が取り付けられたんだけど、まだ通路はそのままあるわ。そこが使えれば・・・。通じてる庭はちょうど王達がお忍びで出入りする道からとても近いし。その方が追いかけるなら早いかもしれない」
「ありがとう!鉄の格子くらいなら、オレの七つ道具で外せると思う。よかったね、兄貴!」
「それはどこら辺にあるんだ」アムイはヒヲリを見つめた。
「ここから窓を伝って、左手4番目のベランダの右端に行ってみて。城内側に大きい備品箱が置いてあるの。それをどかすと入り口があるわ」
そしてヒヲリは俯いた。
「どうか・・・お気をつけて。後のことは私に任せて下さい・・・」
「お前・・・」
ヒヲリはもう顔を上げる事はできなかった。
顔を上げて、アムイの顔を見てしまったら、きっと涙が溢れてしまう。
そんな自分を見られたくなかった。
「礼を言う」
そんな彼女をじっと見つめていたアムイがポツリと言った。
「早く、兄貴!オレ先に行って格子外すから!」
サクヤはもう既に、壊れた壁から城壁を伝い、下に降り始めていた。
それを見たアムイはすぐに後を追って、自分が壊した外壁に手を掛けた。
そして一瞬躊躇したが、意を決したように彼女を見ずにこう言った。
「俺は気に入らない女は抱かない。世話になった」

ヒヲリは思わず顔を上げた。
だが、もう既にアムイの姿はなかった。
抑えていた彼女の目からどっと涙が溢れ落ちた。
(暁の方・・・!)
涙で霞む外の景色を、彼が去った方向を、ただ彼女は見つめていた。
(その言葉だけで・・・・私はこれからも強く生きる事ができる・・・・)
彼女はこの恋に感謝した。
最初から、叶うはずもない想い、だった。
(でも)
とヒヲリは思う。
(短かったけれど、あの方に出会えてよかった・・・)
ヒヲリが頬の涙を掌で拭っていた時、彼女はイェンランがいないのに気が付いた。
「イェン?」
ヒヲリは辺りを見回した。
「どこに行っちゃったのかしら・・・。イェン!」
まさか・・・。
ヒヲリは嫌な予感がして、壊れた壁に駆け寄り、外を覗いた。
「イェンラン!!」

何と彼女はアムイ達の後を追って、外壁を伝い降りていたのだ!

「何してるの!戻ってきて!危ないわ、イェン!!」

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