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2010年2月22日 (月)

暁の明星 宵の流星 #25

一方、キイを抱えたザイゼムは、大股で貴賓室を横切りながら、側近達に大声で指示していた。
「今すぐ!今すぐ私はここを出る!此度の繁殖期は中止だ!」
「陛下!」
ギガンが慌てて彼の前に出た。
「 賊が出た。今からキイを何処かに隠す」
ザイゼムはもう限界を感じていた。このような状態のキイを、もうこれ以上連れ回す事に。
「いいか、お前は事後処理を頼む。桜花楼には適当に言っておけ!もちろん口止め料と共に解約金を上乗せしてな!」
「陛下、こちらです!こちらから城外に出られます!この通路なら今は桜花楼の守衛はおりません」
側近のひとりがザイゼムを手招きした。
彼は軽く頷くと、他に揃っている側近の者に言った。
「私はこれから西周りで南に入る!リドンのティアン宰相と連絡を取ってくれ。それから他の者は、眠らされていた者を頼むぞ。とにかく二組になって行動するように!」
そう告げると、ザイゼムはキイと共に、奥の部屋に姿を消した。


「危ないから早く戻って来て、イェン!」
イェンランは下の窓枠にしがみついて、今にも隣のベランダに移ろうとしていた。
怖さなんか、全く感じていなかった。とにかく彼女はいても立ってもいられなかったのだ。
頭の上で叫ぶヒヲリに、彼女は叫んだ。
「姐さん!私もキイを追いかけるわ!」
「何ですって!?」
ヒヲリは驚愕した。
「そんな・・・そんな馬鹿な事を・・・・」
そして下に向かって叫んだ。
「イェン、そんなの危険よ!無謀すぎる!女がここを出て、外に出て、無事でいられる訳がない」
イェンランはヒヲリを見上げた。
「どんな危険な事が外の世界にあるかわからないのよ!お願い戻って来て!!」
イェンランは彼女の言葉をじっと聞いていたが、意を決してこう言った。
「私、確かめたいの!」
「え?」
「この気持ちが本当のものなのか」
南風がイェンランの髪をそよがせる。まるで運命を決意した、神話に出てくる姫君のごとく。
「キイに会って、確かめたいのよ!」
「イェンラン」
「姐さん、ごめん。姐さんの言うとおり、ここにいれば普通に生きていられるのかもしれない。でも、やはり私わかったの。ここは私の生きる場所じゃない!!」
ヒヲリは固まった。
「どんな事が待っているか、もしかしたら死ぬかもしれない。
・・・・でも。私きっと後悔しない。だってそれは自分が決めた事だもの!」
彼女は思いっきり笑って見せた。
「人の決めた道を歩んで後悔するより、私は自分で決めた道を生きたい。
私・・・・アムイ達と一緒に行く」
「イェンラン・・・・・」
そしてイェンランは軽々と隣のベランダに移り、アムイ達を追いかけて闇に消えた。
ヒヲリは呆然と、彼女が消えた方向をただ眺めているだけだった。

闇に紛れて馬に乗った数名の人間が、風のごとく城外を出て行った。
それを追い掛けようと、アムイとサクヤは隠し通路を抜けて、ザイゼム達の出て行った方向に走った。
だが、馬と人では足の速さが違う。
アムイは城外のはずれで王達を見失ってしまった。
「くっそう!」
苦々しくアムイは悪態をついた。
「アムイ!待って!」
突然背後からイェンランの声がしてアムイはぎょっとした。
「お前!なんだってここに!」
「私も連れて行って!」
その言葉にもっと驚いたアムイは、信じられないという様子で首を振った。
「馬鹿を言うな!女なんか連れて行ける訳がないだろう!?
足手まといだ!!」
「お願いアムイ!絶対足手まといになんかならないから!私もキイを追いかけたいの!!」
アムイは舌打ちした。
「これは遊びじゃないんだぞ!命の危険だってあるんだ」
「覚悟はできてるもん!」
「それにこれは俺の問題だ。お前達には色々と協力してくれて感謝はしている。だけどこれからは俺ひとりで行動する!」
アムイは声を潜めながらイェンランを睨みつけた。
「勝手についていけばいい?」
彼女は食い下がった。
「この格好がまずければ、男の格好に着替えるわ!それに自分の身は自分で守るから!」
その意気込みに、アムイは溜息をついた。
その時途中ではぐれたサクヤが二人の前に、荷物を乗せた馬を二頭引っ張って現れた。
「兄貴、念のため、馬の確保もしといたから」
にっと笑って片方の手綱をアムイに渡す。
「ね!結構オレって使えるでしょ?いつものごとくオレも追い返す?
今回の件でかなり兄貴の信用を勝ち得たと思ったのになぁー」
アムイはむっとして手綱を手にした。
「勝手にしろ!」
そういうとひらりと軽やかに馬に跨った。
サクヤはイェンランに片目を瞑った。
「イェン、あとでオレの服、貸すよ。君、馬には乗れる?」
「まかせて!故郷では手足のように乗っていたわ」
イェンランは目を輝かせた。
「なら安心した。とりあえずオレの後ろに乗りなよ。あとで用意してやる」
というとサクヤもまた馬にさっと跨った。
イェンランも続いてサクヤの後ろに跨る。
「行こう、兄貴。あいつら西に向かって行った」
二人の様子を見て、アムイは苦みばしった顔をして言った。
「ならば勝手について来い。
その代わり、自分の身は自分で守る。自分の事は自分で解決をする。
これを守れるというのなら俺は何も言わない」
そして勢いよく馬の横腹を蹴ると、西の方向へと駆け出した。
「わかってますよ!」
サクヤは威勢良く言いながら、同じ方向へ馬を走らせた。
イェンランはサクヤにしがみついて、外の世界の風を思い切り受け止めた。

自分で決めた道なら、何があろうと後悔はしない・・・・・。

ヒヲリはイェンランが羨ましく感じた。
もちろん自分の今いる環境は自分が納得して歩いて来た道でもある。
だが、イェンランのように外に向かって生きる生き方ではない。
自分に与えられた環境の中で、最高に生きる、それが彼女の生き方だった。

貴女ならきっとできるわ。
きっと自分の思ったとおりに・・・・。

ヒヲリは天を仰いだ。
天よ、あの子をどうぞお守りください。
彼女が無事に愛しい人に逢える様に。
・・・・そしてイェン。
どうかあの方を頼みます。
皆の行く末にどうかご加護を。


ヒヲリが心の中でそう呟いた時だった。
桜花楼の連中が部屋に駆け込んで来て、部屋の惨状に息を呑んだ。
呆然と佇んでいるヒヲリに、警護の者が問いかけた。
「賊が入ったと聞いた!お前は大丈夫だったのか?」
ヒヲリは力なくこくん、と頷いた。
「賊を見たのか?どんな奴だった!?」
ヒヲリは心ここにあらずの様子で、ぽつり、ぽつりと答えた。
それは、彼女があまりにものショックで、放心状態になってるかのように彼らには映った。
「・・・・・顔は・・・隠していたから・・・わかりませんでした・・・・。大きい男で・・・・」
そして自然に涙がこぼれた。
「私達、連れさらわれようとしてここに・・・。ただ・・・・私の代わりに・・・・イェンランが・・・。
私を助けようと・・・抵抗したため・・・代わりに連れて行かれました・・・」
ヒヲリの目からぽろぽろと真珠のような涙がこぼれていく。
「多分、もう生きてはいないかもしれません・・・・」
そう言うと、彼女は崩れ落ちた。
そして周りの目を気にせず、彼女は顔を覆って泣いた。
その嗚咽は、夜が明けるまで続いた。


二頭の馬は驚くべき速さで西を目指し、もうすでに桜花楼の町を抜け出していた。
そしてうっすらと夜明けの光が三人を照らし始めた頃、西の国、ルジャンの国境が見え始めた。

これから何が自分達に起こるかわからない。
イェンランは思った。
でも今、自分の心は開放感に震えている。
彼女は今、やっと自分のやりたい事に進めるのだ。

神々しいほどの朝日がアムイ達を眩しく包む。

アムイは自分に固く誓った。
必ず、今度こそ救い出してみせる。
どんなことをしても!


三人は高台から遥か西に広がる森を見下ろしていた。

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