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2010年3月 3日 (水)

暁の明星 宵の流星 #32

「キイ=ルファイ 。お前のその勇侠さ、男気には感服している」
いきなり上期門下生に呼び止められて、キイは振り向いた。
「・・・だから、お前、俺のイロ(恋人)にな・・・」
最後まで言わせずに、キイは彼に向かって容赦ない蹴りを腹に食らわせた。
「ぐぅ!!」
彼は腹を抱えて勢いよく転がった。
「ばーか!!最後が余計だ!」
ふんっと、鼻を鳴らし、17歳のキイは機嫌を損ね、周りの視線を感じながらその場を後にした。
「先輩!抜け駆けはいけないなぁ」
それを見ていた、キイの同期門下生のひとりが、蹲っている彼にからかう様に言った。
「我らの【宵の流星】を独り占めしようなんて、本当に無謀だね」
「そうそう。俺達、キイの(自称)親衛隊を敵にまわすのかよ?」
周りのヤジに、手ひどくやられた上期門下生は息も苦しげに憤った。
「何が親衛隊だ!お前らがキイに無断でそんな風に集まって、変な協定作ってんじゃねーよ!
つか、そんなの作ったって、いるじゃん、あいつを独り占めしてる奴が!
あいつはいいのかよ!」


確かにこの聖天風来寺(しょうてんふうらいじ)において、キイの存在は際立っていた。
まだ大人の男になる前の彼は、見た目だけは本当に中性的、いや、女に見違えるくらいの美貌の持ち主だった。
女人禁制のこの男だけの聖地で、キイを狙う者が数多くいるのは仕方ない。
その彼をめぐり、かなり周りが揉めに揉めたので、いつの間にやら本人が知らぬ所で、親衛隊なるものができていた。もちろん抜け駆け一切禁止、彼を陰ながら見守る、云々・・・・、と、勝手に決めて。
しかして当の本人はというと、周囲の騒ぎに全く無関心で、いつもマイペースで好き勝手。
肝心の中身はこれまた容姿に似合わず、豪胆で物怖じせず、その辺の屈強な師範代より男らしいし、男前。
まぁ、そのギャップと、彼が生まれ持った、背徳感を醸し出すような妖しい風情が、周りを虜にさせていた。

そんな感じで、彼の行く所、何かしら騒ぎが起こらないはずがなかった。


「で、今日はどのくらいだったんだ?」
アーシュラは経典に目を通しながら、傍にいたキイに言った。
「・・・・5人・・・かな。ああ、あと今日は師範代もいた」
キイは数名の同期生達と共に、書庫(図書室)にいた。
このようなキイでも、キイの男らしさに惚れて、普通に友人として接する者も少なからずいる。
聖天風来寺では、10歳から40歳までの幅広い年齢層に、2年に一度門戸を開くので、同期生といっても年代は様々だ。ちなみにキイのいる805期生は若い年齢層が集まって、実はその一番年上がシータであった。
「おい、キイ大丈夫かよ?師範代まで伸したのか・・・。また始末書?」
仲間のひとりが心配そうに言った。
「俺様に手ぇ出そうとしたんだ。向こうの方がまずいだろ?」
「確かに」
アーシュラは微かに口の端に笑いを浮かべた。
この途中入門したアーシュラ=クラウは四年前、抜群の成績で特待生として805期生に入ってきた。
そして入ってきた早々、血気盛んなキイと対峙し、大立ち回りをやってのけたのだ。
同期の中で最強のキイと互角に渡り、引き分けとなった二人は意気投合し、歳も近い事もあって、それ以来気心知れた友人としてキイと行動を共にする事が多かった。
「まったく、キイの性格知ってるくせに、皆本当に懲りないよなぁ。
・・・でさ、今晩ここ、抜けないか?」
仲間のひとりが言った。
「何かあるのか?」
キイの目が光った。
「おうよ。この下の町に、今日ゲウラから歌劇団が来てんだ。
何か、難民のための慰問で・・・とか言って、綺麗な歌姫達が今宵を飾るってさ」
「綺麗な歌姫」
キイの口元が緩んだのをアーシュラは見逃さなかった。
「なぁ、キイとアーシュラが行けば、絶対女達の方から寄ってくるんだから、俺達も楽なわけよ。
どお?二人とも始末書覚悟で行ってみねぇ?」
「行く行く!そんな事聞いちまったら、行かないわけねぇよな、なぁアーシュ!」
キイは目を輝かせてアーシュラの肩を叩いた。
「お前・・・・、いいのか?この間女連れ込んで始末書ですまなかったじゃないか。
こんな事ばれたらまた独房入りは確実だぞ」
「いいじゃん、今度はアーシュラと一緒だし、独房」
「おい・・・。俺はそんなヘマはしねぇよ。アムイじゃあるまいし」
ぷいっとアーシュラが、外の方に向いた時だった。
「あ、アムイ」
ちょうど外廊下で、ひとりの少年がとぼとぼと歩いている姿が見えた。
アーシュラのその声で、キイはぱっとその方向を見た。
15歳のアムイ=メイは同期の中で一番年下で、集団の中でいつも浮いていた。
とにかく人と目を合わせない、喋らない。一体彼が何を考えてるのかまるっきりわからない。
でも、最近はやっと他の連中とも一言三言話すようになって、何とか意思の疎通ができるようになった。
それも全て、奔放なキイの努力の賜物だと、アーシュラは思っていた。
と、ふらふらと歩くアムイを見て、キイがいきなり表情を険しくした。
「アムイ!」
キイは書庫を飛び出して、アムイに駆け寄った。
「誰にやられた」
キイは怖い顔をして、アムイの手首を取った。
「あ・・・・。たいしたことない」
よく見ると、アムイの右頬にはかすり傷があり、口元にうっすらと血が滲んでいる。
キイは注意深くアムイの体を調べた。
所々かすり傷や殴られた跡を見つけるたびに、キイの顔色が変わっていく。
特に今キイが掴んでいる左手首には刃物傷があって、今は血が止まってはいるが、誰かに切られたのは間違いもない。
キイは何とも恐ろしい形相となっていた。
「またあいつらだな」
声も心なしか恐ろしい。
「いいよ。・・・・俺、負けなかったし」
「って、んなよくねぇだろ!あいつら勝手にアムイを目の敵にしやがって・・・。
アムイを敵にするって事は俺を敵に回しているのと同じだって事を、今度こそ奴らの体に教えてやる!」
「・・・・いいって・・・。めんどいし・・・」
「アムイ・・・・」
キイは溜息をついた。
最近、自分の崇拝者だか何だか知らないが、いつも一緒にいるアムイの事を目の敵にしている輩が増えてきている。その都度アムイは何かしら因縁をつけられ、必ず乱闘になった。幼い頃からキイと共に修行しているため、決して弱くはないのだが、いかんせん、人と触れ合う事が苦手なため、絡まれるといつも投げやりになってしまう。
因縁つけられる事も、アムイにとって煩わしく、面倒な事で、ほとんど受身になってしまうのだ。
なのでアムイは最近生傷が絶えない。
それは互いが思春期を迎えた頃から激しくなっていったのだった。
「とにかく、手、貸せよ」
キイは周りの目なんか気にせず、怪我をしたアムイの手首をおもむろに自分の顔に持っていき、傷口に唇を寄せた。
その何とも云えない二人の雰囲気に周囲の息が止まる。
「いいよ、キイ。皆見てる」
アムイがポツリと言った。
「うるせぇ」
キイはボソっと言うと、アムイの怪我をした手首を両手で包んだ。
キイの手から優しい淡い光が放たれる。
それは彼の左手にいつも輝きを放っている、虹色の玉から来ている感じだ。
すうっと、あれだけ痛々しかったアムイの傷口が綺麗になっていく。

キイは不思議な癒しの力を持っていた。
普段めったに人前では見せないが、怪我や具合の悪い所に手を当てると、完全ではないが、傷が癒えるのだ。
アーシュラ達は、噂には聞いていたその行為に初めて遭遇し、ただ、息を潜めて見つめているだけだった。
キイは、アムイの体についた傷が、意外と多い事に眉をひそめた。
「悪ぃ、俺、今晩やめとくわ」
くるりと仲間達に振り向くと、事も無げにキイは言った。
「ええ~?マジかよ、キイ!お前が来なくちゃ、何の意味もねぇよ」
仲間の一人が大声を出した。
「次誘ってよ?やっぱ俺、また独房に入るのはご免だし。皆で楽しんで来てよ」
「そんなぁ・・・。キイ、さっきまで行く気満々だったじゃん?」
その様子にアムイが小さな声で言った。
「行きなよ・・・・。こんなのどうって事ない・・・」
「ば~か!お前ひとりにしてられっかよ!
・・・つーことで!ほんっとうに悪い!またな!」
と、キイはアムイの頭をくしゃっとすると、二人でこの場を去って行った。


「あ~あ、アムイが絡むといつもこんなだもんなぁ」
「あいつら、ちょっと怪しくねぇ?」
「ま、ガキの頃からずっと一緒ってことだから、しょうがないのかもな」
「ず~っと、って・・・。あいつら部屋も一緒だし・・・・、ほら、例の噂」
「ああ、部屋どころか寝所も一緒、ってやつだろ?」
「ええ!?マジかよ、それ・・・」
思い思いに喋り捲る仲間達に、突然アーシュラは音を立てて経典を閉じ、こう言った。
「お前らも他の奴らみたいに、変な噂流すのか?キイを信じてないなら、もうあいつの周りをうろつくなよ!」
と、つん、としてアーシュラも書庫を去って行った。

確かにここでは、個室と大部屋はあるが(資金によって部屋のランクはある)、二人部屋、というのはない。
だからこの二人の戦災孤児を、この聖天風来寺の最高責任者である、聖天師長(しょうてんしちょう)が引き取ったからといって、この歳になるまで今だに二人部屋というのは、異例な事である。
(何故二人部屋がないか、というと、色々な理由が考えられるのだが、男色が当たり前な世界、ここは男ばかりの所ゆえ、二人部屋にして怪しげな間違いを犯さないようにするため、ともいわれている)

その二人の件について、ある同期生が、思い切って聖天師長に、聞いたことがあった。
「キイは生まれながらに稀有な気を持っていて、それを押さえる事がアムイにならできるから」
という答えが返ってきて、ますます門下生を疑問の渦に陥れたのだが・・・・。

つまり、最近のアムイいじめはこの噂が発端であった。
キイの全崇拝者達の嫉妬を、アムイはモロに被ったのである。
しかもアムイは見目はよいが、性格は暗く、他人を寄せ付けないし、可愛くない。
いつも修行場や教室でも、隅の方でひとり、こつこつと勉強しているタイプだった。
その事もあって、周りの感情を逆撫でしているらしい。

その件について、次の日仲間達はキイを変な目で見た事を反省し、言い訳するようにその事を告げた。
「そんな噂があったのか・・・。だから・・・」
キイは驚いて皆を見回した。
「ま、そういう変な目で見る奴らがいて。・・・いや、俺たちはお前の男気がわかってるからさ、女好きだし。
変な勘繰りはしねぇけどよ」
「中にはそういう目で見る奴らもいるわけよ」
傍にはアーシュラもいて、彼はずっとキイを見ていた。
「・・・へー、みんな馬鹿じゃん・・・」
と、少し自嘲気味に笑っていたキイが、次の言葉に凍りつくのに、アーシュラは気づいた。
「だよなぁ!お前にとって、アムイは弟みたいなもんなんだろ?そりゃガキん時から一緒じゃ、情だって湧くよな」
それは他の者には全く悟られなかったが、いつもキイを見ていたアーシュラにはわかってしまった。
一瞬だ。一瞬だったが、キイの目が黒ずんだ。
アーシュラは理由はわからないが、キイの闇の部分を垣間見てしまったような気分になった。
だが、次の瞬間彼はいつもの自分に戻って、言った。
「そうだよ。あいつは俺の弟みたいなもんだ」

そしてその三日後、対抗試合にて、わざと上期生がアムイに絡んだ事にぶち切れたキイは、暴れに暴れて大乱闘となり、その場にいる連中に声高々と宣言したのだった。

「お前ら!アムイは俺の弟も同じ。二度とこいつに手を出すんじゃねぇ!!
今度そんな馬鹿な真似しやがったら、兄貴同然の俺を敵に回すと覚悟しておけ!」

その時以来、ぱったりとアムイに対しての暴力はなくなった。
そして、何故かキイはその宣言の後、今まで以上にアムイを傍に置くようになったのだ。
今まではアーシュラと行動するのが多かったキイだったのに、この結果に満足したかのように、これ見よがしにアムイと行動を共にするようになった。
見るからに光と影のごとく。
何をするにもふたりで、ひとり。


それは二人が聖天風来寺を追い出される日まで続いた。

いや、そこを出て、キイがアムイの目の前から姿を消すまで、ふたりはいつも一緒だった・・・・。

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