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2010年4月 8日 (木)

暁の明星 宵の流星 #64

「ほら!右が甘い!」
ラムウのよく通る声が丘にこだまする。
「まだまだ!!」
二人の剣士は今、熱い剣を交わしていた。
「噂に聞く月光天司、お主の腕はここまでか?」
「うるさいわね!ラムウ!その減らず口、叩いてやる!!」

対戦中は、セドの元将軍・ラムウと、月光天司ネイチェルだった。
二人は最近、こうして手合わせする事が多かった。
腕に覚えがあるネイチェルも、さすがに大男のラムウは手ごわかった。
……で、そんな二人の様子を、いつもアマトは見せつけられていて、何だかすごくつまらなかった。

何かネイチェルは、あんな悪態をラムウに言ってるくせに、やけに嬉しそうじゃないか?
ラムウだって、対戦中に相手に声をかけるなんて、……今までなかったじゃないか(自分以外)。
二人が手合わせに夢中になっているのは、アマトだけでなくても他の者にも一目瞭然だった。

アマトはいつものごとく、その二人の対戦を、近くの木の下に座ってぼーっと眺めていた。

何で私はこんな気持ちにならなければならない?
彼は面白くない自分の気持ちを分析しようとして…やめた。
きっとまた、いけない方に話がいってしまうだろう。
もう考えるのはよそう、と決めたではないか。

アマトはむすっとして、木の側から立ち上がり、自分の上着を手に取った。

東の国に、冬がそろそろ来ようとしていた。
肌寒い風がそれを告げにやって来る。
国を出て、東のとある土地に来て、アマトは自分の人生を考える。
自分が王家の直系でなく、普通の家に生まれていたら。
…そして彼女が、聖職者でなく普通の娘だったら…。
そうして普通に出会っていたのなら、こんな苦しい想いをしないですんだのだろうか。

ああ、いけない。また考えてしまった。
所詮は仮定の話。夢物語。現実はそんな甘いものではないのは身に染みている。
それに自分はこのような幸せを求めてはいけない人間なのだ。

アマトは夢中になっている二人を置いて、ふらりと子供部屋の方へと向かった。
子供の顔が見たくなったのだ。

ところが彼は子供部屋の前に来て、微かな異変に気がついた。
いつもキイを見てくれている使用人の娘がいない。
何やら嫌な予感がする。
アマトは青くなって子供部屋に急いだ。
「キイ!!」
 
アマトは目を疑った。

その使用人の娘が子供の寝台で倒れている。
しかもそこにはキイの姿がなかった。
「どうしたんだ!大丈夫か!」
抱き上げた途端、彼女が何者かに刺されている事に気がついた。それはアマトの手に生温かいものがべっとりとついた事が知らしめていた。「しっかりしろ!」
彼女は息も絶え絶えに、うっすらと目を開けた。
「……ああ、アマト様…」
「何があった!?キイは?あの子はどこだ!!」
彼女は震える声で言った。
「早く…。キイ様を助けて…。知らない男達が…キイ様を…」
彼女の傷を止血した後、アマトは蒼白となって、男達が去っていった方向に急いで向かった。

「キイ!キイ!」
アマトの只ならぬ様子に、買い物から戻った従者のハルが驚いた。
「アマト様!?どうかされ…」
「キイが何者かに連れ去られた!!」
「何ですと?!」
「私は後を追う!お前は皆に知らせてくれ!頼む!ラムウにも伝えてくれ!!」
そう叫ぶとアマトは剣を持ち、森の奥へと走っていった。


満足げに荒い息を整えながら、二人の手合わせは終了した。
「なかなか、ですね。月光天司。ちょっと隙が多い気がしましたが」
「あら、貴方だって、まあまあよ。ちょっと単純な気がしたけれどね」
二人は顔を見合わせて、ニッと笑った。
ラムウはこの聖職者である女性に、尊敬の念を持っていた。
彼女が聖職者、というだけではなかった。
女性にしてはどっしりとして、なかなか肝が座っている。
しかも後を引かないさっぱりとした性格。
剣の腕も、女性にしてはかなり立つ。本音を言えば、我が君より強い。
……ま、当たり前か。
あの、聖剛天司(せいごうてんし)の剣の指導者だったのだから。

「あら…?アマトは?」
ネイチェルはいつの間にか、近くで観覧していたアマトの姿がないのに、やっと気が付いた。
「…どこに行かれたのか…。いつも終わるまで待っていらしたのに」
ラムウは何となく不安になった。
そこへハルが息を切らしながら丘を登ってきた。
「ラムウ様ーっ」
その只ならぬ様子に二人は顔をしかめた。
「どうした?ハル」
ラムウはハルを待たずして駆け寄った。
「…き、キイ様が…!」
ネイチェルは背筋が凍った。
ハルは途切れ途切れの息で、懸命に話そうと必死だった。
「落ち着け!ハル!!キイ様がどうしたのだ!」
「キイ様が何者かに連れ去られました!!ア、アマト様が今、懸命に追って、森に…」
二人の顔色が変わった。
「森ね!?」
ネイチェルは脱兎のごとく森に向かって走り出した。
もちろんラムウも彼女と共に、森に走る。

頼む。間に合って…!

二人はキイを救うため、一心不乱にアマトの後を追った。


黒い衣服の男達が3人、布で包んだ小さな物体を抱えながら、森の中を急いでいた。
その布の包みから、小さな赤ん坊の頭髪が覗いていた。
「本当にこの赤ん坊が金になるのか?」
一人の男が言った。
「ああ、この子を無事、連れてくればかなりの額ははずむってよ」
赤ん坊を抱えている男が答えた。
「確かこの赤ん坊、…気味悪いらしいですぜ。実は乳母をしている女が、知人の嫁なんだが、…変な力があるとかで…。結構村では噂になってるんですよ、悪魔の子じゃないかってね…」
「悪魔の子?…どちらかというと…天子のように綺麗な子じゃないか。俺はこの子の親に恨みでもある人間が仕組んだ事だと思うんだが」
そう言って、ちらりと赤ん坊の整った顔を男は見た。
本当に愛くるしく、美しい赤ん坊だ。ここまで綺麗な赤子を見るのは初めてだった。
それが悪魔の力を持つ…?俄かに信じられない話である。
「ま、邪魔する者は容赦なく片付けろ、とまで言われているんだ。そうだとしても、俺達はきちんと報酬を貰えれば、それでいい。関係ないさ」


アマトは気が狂いそうだった。
キイ!可愛い私の息子!!
一体誰が息子をさらっていったのだ。
アマトは声の限り、森の中で彼を呼んだ。
「キイ!!」

その時、ぐっすりと眠っていたはずの赤ん坊がむずがリ始めた。
「しっ!静かにしろ!」
男は小声で言いながら、赤ん坊の口を塞ごうとした。

だが、その時、もの凄い地響きと共に、彼らの周囲がざわめき始めた。

「あ…ああ、ん…。ああーん…、あーん」
まるで遠吠えのような、身が切られるような悲痛な泣き声だった。
「な、何だ!?」
赤ん坊の泣き声は、段々と大きく、激しくなっていく。
それと共に、周囲もつられて空気がどよめいていく。
男達は慄いた。
それは初めて経験する、恐れ、だった。
正体の知れない大きな力に対する恐怖、だった。
それがこの小さな赤ん坊から発する、得体の知れないものだというのは明白だった。
赤ん坊の泣き声に呼応するように周囲の木々はまるで踊るように揺らぎ、地面からはずっと地鳴りが湧き起こっている。そしてその赤ん坊からは、白くて細かい、発光体のようなものが次々と現れては消えていく。
まるでその子の周りから白い光の粒子が生まれ、それらは集まり、蒸気のように上に昇り消滅していくように。

「ひ、ひいい!!」
恐怖で我を忘れた男達は、赤ん坊を投げ捨て、殺そうとした。
その時キイの力に気が付き、急いで駆けつけたアマトが躍り出た。
「息子に何をする!!」
アマトは必死に、男が投げ出そうとする赤ん坊をひったくった。
「あああーん、あーん」
キイは益々けたたましく泣き喚く。その度に木々は狂ったようにざわめく。
アマトは無事に自分の腕に戻ってきた我が子にほっとしながらも、男達が恐怖の眼差しでこちらを見ているのに気が付いた。
「お前達は何者なんだ!!何故息子を狙う!!」
だが、アマトの声は男達には届かない。泣き続けているキイの現象が収まらないせいで、男達の恐怖も最高に達し、それを忌み嫌う衝動に支配されていったのだ。
「あ、悪魔の子!」
アマトはびくっとした。
「やはり噂は本当だ!!この赤ん坊は普通の子じゃない!悪魔の力を持っているぞ!!」
彼らの目は尋常な色ではない。恐怖の果てにある、狂気の色、だ。
「なんて恐ろしい……。金なんかどうでもいい…。この悪魔を消さなくては、俺たちが殺される……!!」
アマトの目が驚きで大きく開かれる。
「殺せ悪魔の子を!!」
男達は剣をぬらりと抜き、キイを抱きしめるアマトに向かって切りつけようとした。
アマトは片手でキイを抱きながら、何とか鞘から抜いた剣で、彼らの攻撃に応戦した。
が、多勢に無勢。しかも子供を抱えている。
思わぬところに木の根がせり出していたのに気が付かなかったアマトは、その根に足がひっかかりよろめいた。
その隙を察して男が剣を振りかざす。
間に合わない!咄嗟にアマトは、キイに被害が被らないように自分を前に押し出した。
アマトは自分が切られる事を覚悟した。
が、剣はアマトの肩をかすっただけだった。
「?!」

切り付けた男が、ゆっくりと崩れ落ちた。
その男の後ろから、ラムウの姿が浮かび上がった。
「ラムウ!!」
アマトは喜びの目で彼を見上げた。
「私のアマト様に剣を向ける者は誰とて容赦せん!」
「早くこちらへ!アマト!」
気が付けばもう一人の男を倒したネイチェルが自分に手を差し伸べていた。
「ああ、ネイチェル!」アマトは彼女の側に行こうと身体を起こし、走ろうとした時だった。
最後の男がアマトの右側から切りかかって来た。
「だめ!」
思わずネイチェルはその男の前に躍り出た。
「ネイチェル!」
彼女の背に、激痛が走った。
その痛みを奥歯で噛み締め、彼女は剣を男に振った。
彼女の剣は男のわき腹に入った。それでも襲おうとする男に、ラムウが駆けつけ、男の背中に止めを刺した。
「ネイチェル!血が…」
辺りがおさまった時、キイも疲れたのか落ち着いて泣き止んでいた。
アマトは青くなって彼女に駆けつけた。
「だ、大丈夫よ。こんなの…何でも…」
言葉の途中で彼女は意識を失った。思いの外、出血していたらしかった。


気が付くと、彼女は自分の部屋で目が覚めた。
ふと横を見ると寝台の枕元の近くに、アマトの思いつめた顔があった。
「…私…。もしかして、気を失ってたの?」
アマトはじっと彼女の顔を見たまま、何も答えない。
「い、いやだわ、私とした事が。やはりラムウの言ったとおり、私もまだまだね」
アマトの様子が変な事に、ネイチェルは気にしながらも、明るく言った。

「…ネイチェル」
やっとアマトは口を開いた。
「……な、なぁに?」
「君は…もう、大聖堂に戻った方がいい」
淡々と、そして静かに彼は言った。
「アマト…?どうして?
だって私大聖堂には元々、もう戻る予定ないし…。それよりもキイ様の世話だって」
「キイは気術専門の養育者に預ける事にした」
「気術専門の?」
アマトは溜息をついた。
「ああ。この村でもあの子の噂は悪い意味で広まっているし、やはり専門家に診てもらいながら育てた方が、彼のためだと思うんだ…。…セドからも、そう打診してきた」
「キイ様を」
アマトは彼女に、暗い目をしてこう告げた。
「だから、君はもう、ここに…我々のところにいる必要、ないんだよ」
その言葉は、ネイチェルに鋭く突き刺さった。
もう自分は用なしだ、と告げられたようで、いや実際そうなのかもしれないが、彼の口から聞くのは辛かった。
「それに…」
追い討ちをかけるようにアマトは続けた。
「これは何だい?月光天司。オーンから手紙が来ているなんて…。しかも戻れという話がきているなんて、君は何も言わなかったじゃないか」
そう彼は彼女に手紙の束を見せた。
「見たの?」
ネイチェルは驚きの目で彼を見上げた。
「見たも何も…。君の机の上に広がったままだったよ、手紙。嫌でも目に入るよ」
ネイチェルは唇を噛んだ。そういえば、読んでいる最中にキイ様の事で用事頼まれて、そのままだったっけ。…迂闊。
「でも、ほら。私はどうせ医療奉仕するつもりだったし、もう大聖堂には戻らないって返事…したのよ。だから…」
「ネイチェル」
アマトは溜息をついた。何か、怒っている感じだ。…どうして?
「ならば、その医療奉仕とやらに、もう行った方がいいじゃないか?」
「アマト…」
ネイチェルは泣きそうになったが、こんな感情になるのがおかしいのだ。
「そ、そうよね…。キイ様が…、ここを出られるのなら…私はいらないわよね…」
「……君を必要とする人間は…世の中には沢山いる…。もう、こんな大罪人がいる所に、いる理由がないだろう?」


ネイチェルは重い心のまま、 オーンに向かう船に乗っていた。

〈月光天司。此度は医術経験ある聖職者を集い、新たな機関を作ろうと思っています。是非、貴女様に大聖堂にお戻りいただき、お力をいただきたいと存じます……〉

彼女は、二つ先のの村で預かって貰っていた、大聖堂からの文書を手の中で握り締めた。
姫巫女の手紙を出した時、自分も大聖堂に手紙を出した。

自分は無事でいる事、巫女様を守れなかった事、彼女を自分自ら見取った事。
その贖罪のために、オーンに戻らぬ事。

場所は教えられなかったので、二つ先の村の雑貨屋に頼んで、手紙を出してもらった。
この雑貨屋は何でも揃っていて、ネイチェルがよく使っていた店だ。
何度も通ううちに、そこの店主と仲良くなった。
何か事情がありそうだと察した人のいい老人は、彼女の頼みを快く引き受けてくれた。
もちろん彼女の首にかかっている、オーンの紋章で聖職者と知って、安心しているのもあった。
それが先日、子供のものが足りなくなって、久々に彼女は馬でその雑貨屋に行った。
(天司様)聖職者は全てこう呼ばれる。
(天司様、オーンからお手紙が届いておりましたよ)
(オーンから?)
そう言われてネイチェルは、店主から手紙の束を受け取った。
(なかなかこちらにおいでになりませんでしたので…。かなりたまってしまいましたが、よかったです。今日お渡しできて)

ネイチェルは、その手紙を開いたまま、机の上に出しっぱなしにした事を少し後悔していた。
…確かに、迷いはあった。…自分はオーンに戻った方が良いのではないか、と。
…本当は、怖かったのかもしれない。
このままあそこにいたら、自分の気持ちが大きくなりそうで。
だから正直、戻ろうかと思い悩んだ。
だがそれ以上に、自分があの場所から動きたくなかったようだった。
色々手がかかるけど、キイ様が可愛くてしょうがない。
みんなもいい人達ばかりだ。
あの無骨なラムウだって、話すと意外に気さくだし、剣の相手はしてくれるし、
それに……。

それに……。

ネイチェルは目を閉じた。
あの満月の夜に、彼の手を取ったあの日から、自分はどうもおかしいのだ。
あの手の感触を思い出すたびに、心も身体も言い難い何かに疼くのだ。
彼の黒い瞳を見るたび、あの甘くて低い声を聞くたび、心臓が早鐘を打った。
まるで、自分が自分じゃないみたいだった。

だから、つい、最近は彼を避けるような事ばかりしてしまった。
なので時間があると必ずラムウにせがんで剣の相手をしてもらった。
……この気持ちを振り払うために。

彼に向かった刃を見たとき、何も考えられなかった。ただ、彼を守りたかった。
………その時はっきり自分の気持ちが見えてしまった。
私は……聖職者のくせに、神と契った女のくせに…。
ひとりの男を愛してしまったのだ。
いや、正確には初めて会った時から、多分自分は彼に惹かれていた。
彼が大事な姉(あね)様とああなって、怒りと悲しみでいっぱいだった時も、自分は彼を心から憎む事ができなかった。…ただ、心の底に哀しみだけが横たわっていた。
…だから…。手紙を見られたのは、まずかったと思ったが、これでよかったのかもしれない。
アマトが、冷たく自分を遠ざけてくれて、よかったのかもしれない。
…でも……。

ネイチェルの目から涙がこぼれた。
それがこんなにも辛い事だったなんて………!!
彼の側にいられない事が、姿を見れない事が、こんなに辛い事だったなんて…!!
彼女は潮風がなびく甲板で、ひとり顔を手に埋め、むせび泣いた。

アマトはキイを抱きしめたまま馬に乗り、1年半ぶりにセドの国に戻る途中だった。
この子をセドの息がかかった術者に預ける…。
確かにこの子の将来のためには、その方が安心かもしれない。
もちろん自分も彼のために、色々と学ばなければ…。
そう思いながら、腕の中の愛する我が子を見下ろした。
彼は今、落ち着いてすやすやと眠っている。

セドの術者である百蘭(びゃくらん)は王家直属の担当術者でもあり、かなりの術に長けている中年の男だ。彼はその能力を買われて大陸の賢者衆に推薦されたのだが、そういう称号や権位には興味がなかった。それで即座に断り故郷のセドのお抱え術者になったのだ。
彼に預ければ安心だ。彼は子沢山だし、しかもラムウをあの聖天風来寺に推薦までしてくれたほど、自分達の味方だった。

「キイ、もう少しでセドの国だよ。父の故郷…お前の国でもあるんだよ」
アマトはそっと、息子の柔らかな髪に口づけした。
一体誰が、息子をさらおうとしたのか……。結局判らずじまいだった。
あの状況では、正気を失っていた相手を倒すのが精一杯だった。
その事に不安を感じながらも、彼はネイチェルが自分の目の前で倒れた時の事を思い出して、小さく慄いた。
まさか自分達のために、彼女が身を挺して刃の前に飛び込んでくるとは思わなかった。
あの時の恐怖。彼女が傷つけられた事の怒り。あの血の気の失せた顔を見た時の感情。
アマトは愕然とした。
本当に怖かったのだ。もしこのまま彼女を失ってしまったら、自分はどうなってしまうのだろう??
正気でいられなくなりそうで怖かった。
ネイチェルは一晩中、寝台の上で眠り続けていた。
その青白い顔を見ながら、アマトは胸が苦しくてどうしたらいいかわからなかった。
しかも、彼女の机の上にあった、オーンからの手紙。
彼の気持ちは決まったのだ。

これ以上、彼女をここに縛りつけるのはやめよう。
いつまた彼女を危険な目に合わせるかもわからない。
キイの力の事、自分が大罪人という事も、もしかしたら関係しているかもしれない。
それより何より、アマトは彼女の安全を願ったのだ。
彼女は崇高なる聖職者。これ以上巻き込むわけにはいけない。
自分のような大罪人と一緒にいてはいけない。
……彼女が…自分達のせいで、この世にいなくなるのは…死ぬよりも辛い。
だからわざと突き放した。冷たくした。助けてくれた事には感謝したが、もう、これ以上辛い思いをしたくなかった。

(ネイチェル、君は早く私達の事を忘れて、本来の月光天司に戻ってくれ…。
そうしてくれなければ…私は…自分がどうにかなってしまいそうなんだよ…。この大罪人の自分が…)


そしてアマト達はセドに入った。
城ではアマトを脅かす相談がなされていたとも知らずに…。


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