暁の明星 宵の流星 #92
アマトは逸る気持ちを抑え、裏手より城内に入った。
もうすでに、聖戦士第一軍が城内に侵入して、セドの兵士と戦闘を繰り広げていた。
嫌な予感がした。
子供達の事を考えると、アマトは居ても立ってもいられなかった。
このような緊急事態に、王家の考えそうな事。
そう、絶対にキイのあの力を利用しようとするに違いない。
すぐ後ろにラムウがアマトを守るようについて来ていた。
「アマト様!玉座の間に向かいましょう」
「ラムウ」
「聖戦士達は最上階に向かっています。多分王家の者達はそこに…」
「そうだな」
二人は急いで別の階段より最上階を目指した。
きっと子供達はそこにいるに違いない。アマトは確信していた。
特にキイを使おうとするならば、玉座の間が最適だ。
あの部屋は、この城の最頂点であり、中心にある。
…玉座の間。いずれかは我がアマト様がそこに君臨するはずだった…。
いや、今でもあの玉座はアマト様のもの。アマト様が一番似つかわしい…。
ラムウは最上階を目指しながら、心が躍るのを止められなかった。
ああ…!私の神王よ。やっとここに戻ってきました。
ラムウはこの日を…この時を、本当は心の底で待ち望んでいたのですね…。
今まで私は何をしていたのか…。
本当はしなくてはいけない事を今まで忘れていました。
まるで夢から覚めたようだ…。
最上階に着いた時点で、すでに玉座の間の付近では、シロンらが聖戦士と戦っていた。
アマトとラムウは剣を抜き、躍り出た。
「ア、アマト!」
かなり痛手を負っているシロンが、アマトの姿を認めて目を見開いた。
「助太刀する!だが、私の子供達はどこだ?キイは?アムイは?」
だがシロンは固く口を閉ざし、アマトに子供の居所を教えない。
「シロン!」
そうしている間にも、聖戦士達がどんどんセドの兵士を倒していく。
「アマト様!ここはラムウにお任せください!早く貴方は玉座の間に…」
その言葉にシロンの顔色が変わったのを見て、アマトは子供達がその部屋にいる事を確信した。
「頼むぞ!ラムウ!!」
アマトはシロンが叫ぶ声を無視して、玉座の間に急いだ。
そして部屋に入ってぎょっとした。
キイが…愛する息子が…何という姿で捕らえられ、今、何かをされそうになっているではないか。
気術をかじっているアマトにも、今この男がキイにしようとする事の意味がわかった。
この男は、キイの…光輪を解放しようとしている…!!!
(いけない!!)
アマトは無我夢中で男に飛び掛り、剣の柄で思いっきり殴った。
「キイ!!」
男は吹っ飛んだ。
「アマト!!」
キイの顔が自分を見てぱっとしたかと思うと、徐々に歪んでいく。
アマトは急いでキイの傍に行くと、手首に繋がれた紐を取ろうと懸命になった。
「可哀想に!!彼らは何て事をするんだ…。待ってろ、キイ、今助けるからな」
アマトはようやくキイの左手に結ばれている紐を解いた。
そしてもう片方に取り掛かろうとした時、キイの怒りの篭った声が向けられた。
「遅いよ!!アマトは来るのが遅いよ!」
「キイ…」
キイは半べそを掻いていた。
「お、お前のせいで…俺達は…ひ、ひどい仕打ちを受けて…。
お、俺の…生まれの事だって…!
お前がお母さんに酷い事して俺を生んで死んだのも…・みんな、みんな教えてくれたよ!!
アマトの馬鹿!!アマトのせいで…」
アマトの顔が苦悶した。
「ごめん…本当に悪かった、キイ…。私は…」
「俺だってショックだったのに、特にアムイなんか…」
と、言いかけた時、ふと視線を感じ、キイはアマトの肩越しにその方向を見、息を呑んだ。
「アムイ!」
今部屋に入ってきたのか、アムイが扉の近くで、凍りついたようにその場に佇んでいた。
その声にアマトは振り向き、ショックを受けた。
「ア、アムイ…」
愛する我が子の姿を見て、アマトは愕然とした。
顔にも身体にも殴られた痕。目は空ろで生気がなく、微かに全身が震えていた。
一体何があったのか、何をされたのか、一目瞭然だった。
「アムイ!」
アマトはキイのもう一つの紐を解くと、真っ青になって我が子の元へ走った。
両手が自由になったキイは、へなへなとその場に座り込んだ。
“気”をいじられたせいで、キイは身体に力が入らない。
アマトの目に涙が滲んだ。
何て事だ…。何て事をこんな小さい子にするのだ…。
早く助けてあげられなかった事を、アマトは心から悔やんだ。
アムイはまるで、傷つけられた小さな獣のようだった。
アマトが手を差し伸べ、抱きしめようとすると、ビクッとしてアムイは後退った。
「アムイ…」
アムイはキイのことだけ考えて、痛む身体を庇いながら最上階までやっと辿り着いて足がすくんだ。そこはもうすでに戦場だった。
(どうしよう…キイ…。あの部屋からキイを感じる…。でも)
その戦闘の激しさに、一瞬アムイは躊躇した。が、その時アムイの目にラムウの姿が飛び込んできた。
(ラムウが来ている!!)
アムイは安堵した。二人の英雄、ラムウ。彼が来てくれてるのならもう大丈夫だ。
アムイは勇気を振り絞り、戦闘の合間をくぐって部屋に急いだ。
部屋に入ってアムイは固まった。
目の前に、あれほど求めていた父の姿があった。
(父さんが…助けに来てくれた…)
アムイの胸に喜びが沸き起こった。
「アムイ!」
だが、アマトがアムイの元へ駆け寄り、手を差し伸べた瞬間、アムイの身体は拒否反応を起こした。
《大罪人…!》
アムイの脳裏に、皆の父を愚弄し、蔑む声が駆け巡った。
《お前の父親は巫女を穢した大罪人だ…》
《王家の汚点。お前の親父は神を冒涜した》
《きっと神はお前の親父を許さない》
アムイは頭を振った。嗚咽が込み上げてくる。
《お前はその大罪人の子。お前も穢れているんだ》
アムイは後退った。怖かった。苦しかった。…そしてキイを思うと怒りが湧いた。
《キイの母親を…無理やり…》
《だから神は怒り、キイの母親は死んだ》
キイの悲しげな顔がちらつく。
《しかもまた聖職者とお前の父親は…。お前は本来生まれるべきではなかった》
《お前の母親は汚らわしい女。だから神罰が下ったのよ。だから切り刻まれた…神の刃で》
「アムイ…どうしたんだ?助けに来たんだ。さあ、父さんが来たからもう大丈夫」
「嫌だ…来ないで…」
自分に触れようとした父のその手を、アムイは振り払った。
「ア、アムイ…」
アムイの涙腺は決壊した。
「父さんは…悪い人なの?皆…父さんの事悪く言う…。
キイのお母さんに酷い事したのも…みんな父さんが…!!」
アマトは胸が詰まった。こんなに…我が子が傷ついて…。
「アムイ、私は」
「父さんは神様から許されない事をしたんでしょ!?
大罪人なんでしょ!?
その子供のおれも穢れてるんでしょ?
だからおれは痛い思いをしなくてはいけないんでしょ?」
「何て事を…!違う、アムイ」
「そうなんだよ!おれは罪の子だから生きてちゃいけないって。
おれも母さんと同じ、神様に嫌われてるから!!償わなければいけないんだよ!」
アマトは愛する我が子の言葉に、完全に打ちのめされていた。
ああ!こうなる事は覚悟していたが…。
自分はもうどうなっても、何があっても、甘んじて受けると思いながら生きてきた。
だが、…愛する我が子が受けた傷…。いくら覚悟をしていたとはいえ、自分が傷つくよりも痛かった。
それ以上にアマトは、命を賭けてでも守ろうとした、大切な自分の宝を、また守りきれなかった事に絶望した。
…何て自分は無力なのか。
何という愚かな父親なのか。
「や!やめろっ!!」
突然キイの悲鳴が上がった。
「キイ?」
アマトに殴られ、失神していたマダキが目を覚まし、再びキイを捕まえたのだ。
「やめろ!キイから手を離せ!!」
アマトは必死にマダキに突進した。
二人は揉み合った。何とか阻止しようとするアマトの腹を、マダキは力いっぱい殴りつける。
「ぐっ!」
その一瞬の隙に、マダキはキイの額を掌で覆った。
バチッ!!
まるで電気が弾くような大きな音がした。
「キイ!!」
アマトは蒼白になった。キイは額から白い光を出しながら、叫び声を上げた。
「あああああああ!!!」
マダキは勝ち誇ったように笑った。
「神の気“光輪”よ!!今こそ、この威力を愚かな人間どもに知らしめせる時!!
はははは!!私はこれからこの力で、この世界に君臨するのだ!
あたかも絶対神のごとく!!ふふ…ふふふ!あーっはははは…」
「キイ!キイっ!!」
アマトはキイの傍に駆け寄り、身体を支えた。
キイは苦しみ、のた打ち回っている。
アマトは何とかできないかと、一生懸命キイの身体を調べ始めた。
「触るな!我が神気を宿し子供に!」
その様子に憤怒したマダキがアマトに殴りかかろうとした時、ズサッと肉を斬る音がして、彼は崩れ落ちた。
「ラ、ラムウ…」
この光景に、声もなく固まっていたアムイが、やっと口を開いた。
そこには、己の剣をマダキの血で染めたラムウが、ゆらりと立っていた。
「…私のアマト様に…危害を加える者は、誰であろうと…この私が許さない…」
「ラムウ!来てくれたんだな!」
アマトは安堵した。
彼がここにいるという事は、外の戦士を全て彼が片付けたという事であろう。
「ラムウ、大変なんだ…!キイの気が発動始めた!とにかく何とか抑えなければ…!」
アマトははっとした。そうだ、アムイ…。
「アムイ!頼む!キイの力を受けてくれ!もうそれしか方法はない!
さあ!アムイこっちに来てくれ!」
アマトの叫び声に、アムイは震えた。
だが、キイの苦しむ顔を見て、意を決し、身体を動かそうとした。
その時、目の前に佇んでいたラムウが、ふらりと動いた。
「…?」
どうしてだかアムイは、その彼の動きに目が吸い寄せられた。
ラムウはまるで幽霊のような足取りで、ふらふらと進むと、血塗られた自分の剣を放り出した。
そしてその近くに落ちていた、アマトの剣を拾い、柄をぐっと握り締めた。
(ラムウ…?)
アムイはどうしてもラムウから目が離せない。
「早く!アムイ!」
アマトはキイの様子を見、支えるだけで精一杯だった。
「ア、アマト…俺…」
キイは荒い息を繰り返しながらも、何とか目を開け、アマトの顔を見上げた。
突然、キイの目の前が真っ赤に染まった。
「え…?」
アムイの目の前にも、まるで赤い花びらのような飛沫(しぶき)が踊った。
どこかで見た…!あれは…あれは母さんと同じ…。
「うぁあああっ!!アマト!!」
キイの悲鳴で、アムイは我に返った。
「父さん!!」
アマトはラムウの持つ己の剣で、背中から身体を一息で貫かれた。
おびただしい血が、彼の身体から勢いよく飛んだ。
背中にラムウの息遣いを感じる。
アマトはそのままその場に崩れ落ちた。
「父さん!」
信じられなかった。
何故?何でラムウが父さんを!?
アムイは、キイは混乱した。
当のラムウは返り血を浴びたまま、まるで何もなかったかのような、不思議な表情をしていた。
何を考えているのかわからない、いや、恍惚としていたのかもしれない。
ラムウはアマトの身体から剣を抜くと、跪き、彼の身体を抱き起こした。
アマトの手が、ピクリと動く。まだ、微かに息があるようだった。
「アマト…さま…」
アマトは血の気を失せた真っ白な顔をして、焦点の定まらない瞳を、懸命にラムウに向けた。
「ラ…ムウ」
力を振り絞って、アマトは声を出した。
「…アマト様…。ラムウをお許しください…。
これから一緒に…神の御許に参りましょう。
大丈夫です。このラムウがいつまでもお供いたします。
私が私が愚かなばかりに…大事なアマト様をお守りできなかったばかりに…。
このような神に背く事をさせてしまった…!!
この王国の真の王を失わせてしまった…!!
私も一緒に参ります。貴方は神に疎まれてはならない」
あの、ラムウの目から、涙がこぼれた。
アマトは初めてだった。彼の涙…。ああ、私は…。
「全ては私の責任です、アマト様。
神に贖罪する…そのためには、聖職者が貴方様を裁くよりも、自ら率先して神に向かう方がいい…。少しでも神に我々の誠意をわかって欲しかった。
全てを…収める為には、こうする方がいいのです…。私の神王…。我がセドの太陽…」
ラムウの涙の雫は、はらはらとアマトの頬に落ちた。
アマトは途切れ途切れの息で、懸命に声を振り絞った。
「ラムウ…。お前は…。そうなのか…そうなのだな…。
わかった…。ラムウよ、私こそ許してくれ…」
「アマト様…?」
「…お前の気持ちはとてもよくわかった。
だが…だけど…お前は私の…後を追わないで…くれ」
ラムウの顔色が変わった。
アマトの瞳が潤み、すぅっと一筋、涙が落ちた。
「神に謝罪するのは…私だけで…充分だ…。
崇高で、清廉潔白な信徒であるお前が…この大罪人と共に来ることは許さない。
…ああ…お前の心の内もわかってやれなかった…こんな私にやはり神王の資格はないよ…。
神に裁かれるのはもう私ひとりだけでいい…。だが、ひとつだけ心残りがある…
ラムウ…う…子供達を…どうか、私の大切な子供たち…を…」
ごほっとアマトは吐血した。唇から真っ赤な血が溢れる。
「アマト様!!私は、私は…。もう清廉潔白ではありません…!
貴方と同じく罪を重ねました…。私は…貴方と同じに…」
最後の力を振り絞り、震える手でアマトはラムウの腕を掴んだ。
「では…なおさ…ら…私の…罪は…重い…な…」
「だから私も一緒に…!」
「…だめだ…お前の分は私が贖罪する…だから…生きて…子供…を…」
最後はもうほとんど声にはなっていなかった。
かくん…。
アマトの最後の力が尽きた。
ラムウはどんどん冷たくなっていく、彼の身体を愛しそうに抱きしめた。
その死に顔はまるで眠っているかのように美しかった。
こんな…こんなの嘘だ…!!アムイは目の前で起きた事が信じられなかった。
何があっても守ってくれたラムウが…父さんを…父さんを…!
「父さん!!やだ!父さん!!」
アムイはたまらず父の元へ走り出した。
「触るな!!」
ラムウはアムイを片手で払い飛ばした。
「汚らわしいその手で、セドの太陽に触るな!!」
「ラ、ラムウ…?」
今まで見たことのない、ラムウの冷たい瞳が、アムイの心を貫いた。
「お前が…お前達のせいで…セドの太陽は穢された」
その声は冷たく、まるで刃物のようだった。
「お前達が生まれなければ…私のアマト様は罪びとにならなかった…。
ああ、セド王国の太陽!!この国の希望!!真の神王!!
それをお前達は壊したのだ!!
この悪魔め!!お前達は悪魔に唆され、やって来たのであろう!!」
ラムウの叫びは容赦なくアムイの心を攻撃した。
その動揺が、波動となって、苦しむキイの元に届いた。
キイは胸を押さえ、額からの発光に眩暈しながら、声を振り絞った。
「アムイ!駄目だ!ラムウの言葉を聞いては駄目だ!!」
キイは瞬時に悟った。このままではアムイの心が死んでしまう…。
俺の、純真で、無垢で、何事も許し受け入れてしまう…まるで天の申し子ような…俺のアムイ。
それが言葉の刃(やいば)で殺される!!
「アムイーっ!!!」
アムイは頭が真っ白になった。
もう、何も考えたくない…。もう何も感じたくない…。
ラムウから発せられる黒いものが、彼を闇の底に引き摺り下ろそうとしていた。
「アマト様!!アマト様!!」
もうすでに冷たくなったアマトの身体を掻き抱き、ラムウは乱心したかのように泣き叫んだ。
「ああ!!早く、早くこうするべきだった…!」
ラムウは血にまみれた彼の形の良い白い手を取り、そっと口付けた。
「もっと早くこうしていれば、アマト様も私も…罪を重ねなくて良かったのだ…。
私は何故…そうしなかったのだろうか…。ああ。あの月の夜に…。
あの時に共に命を絶っていたのなら」
そしてラムウは、アマトのその指を口に含んだ。
ゆっくりと、味わうように彼の血を舐め取っていく。
ラムウは彼が死してやっと、彼に深く口付けをする事ができたのだ。
生きている時は決して、そんな事は許される訳も、出来る訳もなかった。
ラムウの心に愛しさが込み上げる。
「私も今一緒に参ります。私も共に謝罪しましょう…。
さあ、アマト様、貴方が座るはずだった…玉座が待っておりますよ…」
ラムウはそう言ってアマトを抱きかかえると、中央にある玉座に連れて行きそっと座らせた。
「アマト様…貴方の玉座です。本当によくお似合いだ」
そう言って、アマト本人を貫いた王家の剣を、彼の手に持たせた。
ラムウは恍惚とした表情で、アマトの白い、美しい顔を見つめた。
「最初で最後…貴方様の命令に背きます事を、お許し下さい、アマト様…!
貴方は結局私の本当の気持ちを…わかってくださらなかった…。
私のこの想いを…真に理解されなかった…。
いいのです。それでも私は貴方を心から愛している。
だから、貴方の最後の願いを…命令を…聞く事はできません…」
ラムウの目に再び涙が光った。
「貴方は酷い人だ。私に後を追うな、なんて…」
剣を持たせたアマトの手に自分の手を重ねる。
「もうすぐ大聖堂の第2軍が我々を裁きにここに来るでしょう…。
でも何も問題はありません。私達が先に神の元へ行くのですから…。
我々を裁くのは大聖堂ではない。絶対神だけなのだから」
彼の目が歓喜に輝く。
もし、神の怒りが収まらず、共に地獄に突き落とされようと、私は貴方を必ずお守りいたします。
これからも…永久に…。魂がある限り…!!
ラムウはぐっとアマトの手を掴むと、王家の剣を己の肉体に突き立てた。
真っ赤な血が彼の胸から噴出し、ゆっくりとアマトの膝元に倒れ込む。
「いま…参り…ま…」
ラムウは幸せそうな顔で、そのまま息絶えた。
アムイはその様子を一部始終ずっと目に映していた。
よく意味がわからない。
大人の言っている事、やっている事…理解できない…。
アムイは今まで自分を襲ってきた、大人の闇に翻弄されていた。
その真っ黒な闇がアムイの心黒く染め、蝕んでいく…。
だから、今、キイの身に起きつつある脅威に気づかなかった。
いや、わからなかったのだ…。
キイの変化に一番敏感なアムイが…。
キイは自分の額のチャクラが、大きく開いていくのを感じていた。
(怖い!!)キイは自分が自分でなくなる感覚に襲われた。
ごぉおぉおぉ…。
そこから恐ろしいうねりの音が轟く。今までにない、白光の輝きが渦巻いている。
キイの瞳が黄色に染まる。それが段々と白くなっていく。
駄目だ!ああ、もう駄目だ!!止められない!!!
「アムイ!!!」
自らを犠牲にして第一軍を送り出したサーディオ聖剛天司(せいごうてんし)は、体勢を整え、第2軍と共に今城内に踏み込もうとしていた。
が、突然何かを感じて、彼は足を止めた。
ごぉぉぉぉぉぉ…
何処からともなく、聞こえてくるその音は、彼の耳を刺激した。
初めて聞くその唸りに、尋常でないものを感じる。
(何だ?この音は…?どこだ?どこから聞こえてくるのだ?)
ふ、とサーディオは何となく空を見上げ、凍りついた。
空が、天が、唸っていたのだ。
「な、なんと…」
暗黒の色をした巨大な雲が、稲光を伴いながら、セド城の真上に存在していた。
唸りはそこから聞こえてくる。
全ての空が、藍色と赤い色と橙色に…見たこともない色に混ざり合い、その中で黒雲が蠢いていた。
天が…何かに反応しているようだった。
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