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2010年6月19日 (土)

暁の明星 宵の流星 #100

「なぁ、キイ。私は知ってしまったんだよ。…その生き残った人間の真実を。
石版の最後に刻まれた名前。そして…セド王国が己の存続の為に犯してしまった最悪な大罪を」

ザイゼムは自分の髪を指に絡ませ、耳元で悪魔のごとく囁いてきた。

「セドの王子が、神の一番の申し子であるオーンの姫巫女を無理やり陵辱し、その果てに産ませた王子。
…最後の石版に刻まれた背徳の王子の名前。それがお前だ、キイ=ルファイ。
………………いや、
キイ・ルセイ=セドナダ。
禁忌の末に生まれたセド王国の最後の王子」


そうか。

ザイゼムの奴、俺の素性をすでに知っていたのだな…。

だが、こいつは俺の光輪(こうりん)にまでは、調べが及んでいないようだ。

思わず含み笑いをしてしまう。
……俺がセド王家の血を引く事を、完全に隠し通すつもりはない。
何故なら、俺の名はすでに王家の名簿に刻まれてしまっているからだ。
しかも別人として生きるには、己の光輪は隠し切れぬほどに大きい。
必ず何処からか足がつく。それならば、いっそ…。


「それで?」
つい、からかうような声を出してしまう。
「だから何?それでお前は俺を…どうしようというのか?」
ザイゼムがむっとしたのがわかった。
「背徳の王子であるお前が握っているその王家の秘宝を私がいただく。
そのためにはお前を逃がす訳にはいかないのだ」
「そうか…やっぱりな…」


やはり俺の“気”についてはまだ何も知らないようだ。
俺を手にすれば、神の力が手に入る…。
はは!肝心な話が、噂止まりの情報じゃねぇか。
……だけど。

だけど、このままだと…。
一番知られたくない部分まで、探られる恐れがある。
…先ほど、あれだけ光輪の奴が大暴れしやがったのも…まずい。
アムイが傍にいない今、もう一度あの逆流が来るはずだ。
そうしたら、完全にやばい。
まだ…まだ機が熟していないというのに…。

アムイ…!!

「……じゃあ、このセドの王子である俺様が、【暁の明星】が是非必要なんだ、と言ったら、お前は俺にアムイをくれる気があるか?」
皆のきょとんとした顔が、自分を安堵に導いてくれる。

「なぁ、正直に答えなよ。この俺に、暁をくれるのか、くれないのか」
さあ、ザイゼムよ。お前のアムイに対する認識はどのくらいだ?言ってみろ。

「…何故、お前に暁を与えなければならない?あの影のようにいつもお前の傍にいる…目障りな小僧を」

その言葉で、自分の心は決まった。

俺の存在は、隠しても隠し切れないが、アムイは違う。
信頼できる者以外、今はアムイの素性を暴かれたくない。
アムイが俺と同じ、セド王家の血を引いている事。
俺の光輪を受けるために、いつも傍にいる事。
…俺達が本当の意味での、二人でひとつの存在だという事を。

今はできるだけ知られたくはない。
アムイが目覚めるまでは。
アムイが闇を超えるまでは。

「くっくく…」
ああ!まだこいつらにはアムイの価値がわかっていない。

「…ふふ、ふ、ふ、ふふふ、ふ、はは…ははは…」
ならばこれ以上、俺達を詮索しないようにしてやるさ。

「ははは、あーっははっはっ!」
自分の懐で脈打つ虹の玉が、俺の気持ちを察して輝く。


俺はいきなり椅子から立ち上がり、一瞬で隣にある寝台の上に飛び乗った。
肩の関節を緩めると、後ろ手に縛られた手を目の前に戻し、結ばれていた手首の腰紐を、思いきり歯で引きちぎる。

「キイ?」
皆が唖然としている。
でももう周りなど、どうでもよかった。

あるのは愛しい者への思いだけ。

あるのは一国を滅ぼした責任だけ。


取り出した8粒の虹の玉は、自分の決意に同調してくれていた。

一か八か…!信じてるぞ、アムイ。

息を詰めると、一気に玉を全て口に放り込む。ごくり、と喉が動く。


「キイ!何をするんだ!!」

はるか遠くで、ザイゼムの叫ぶ声が聞こえたような気がした。

だがもうすでに、光る虹の玉は体内に留まり、キイの意識を閉じ込め始めていた。
あの、子供の頃の懐かしい感覚が彼を支配する。

ああ、アムイ。俺はこうするしかなかったんだよ。

せめて…せめて…。お前を今、現状以上の危険に晒したくないんだ。

俺は時間を稼ぐ。

だから、アムイ。俺を捜してくれ。俺を見つけてくれ。

……そして俺をあの時のように、その手で引き上げてくれ…!!

朦朧としているキイの意識が混ざり合い、過去と未来がごちゃごちゃになっていく。
必死で今、キイは己の意識が引きずられていくのと戦っていた。
そのせめぎ合いの中、微かに、あの求めていた懐かしい、甘美な“気”の存在が近づいて来るのを感じ取った。
…ああ!あれは…!!


アムイの大馬鹿野郎っ!!
いっつもお前は時間がかかり過ぎるんだよ!!
ったく!近くに来ているのを感じてるぞ!
早くしろー!!この馬鹿っ!!てめぇ!
俺様が死んじゃうじゃんかっ!!!


「今、誰かに罵倒された…」
ぼそっとアムイが呟いた。
「何だ?」
アーシュラが解せない顔をした。
「いや、この感じ…。この懐かしい感覚…」
アーシュラに誘導され、多分キイがいるであろう、ザイゼムの部屋に行く途中の廊下に、アムイ達三人はいた。
「?」
「いや、誰かなんて決まってる…」
眉根を寄せていたアムイは、突然はっとすると、青くなって走り出した。
「おい、アムイ!待て」
アーシュラとシータは驚いて、アムイの後を追ったその時だった。

「宵の君!!」
少年の甲高い声が廊下に響いた。
「しっかりして!宵の君!!お願い、誰か助けて…」
あの声はルラン!!アーシュラはキイの身に何かが起こったことを感じ、シータと共に弾かれるように部屋へと急いだ。
すでにアムイは二人の先頭を走り、声のする扉に向かっていた。
「アムイ!早く」
アーシュラは周りを確認しつつ、アムイを促した。
ルランの声は尋常ではなかった。嫌な予感がする…!キイ!
大きな音を立てて扉を開くと、勢いよく三人は部屋に駆け込み、ぎょっとした。

寝台の上で、真っ白な顔をして息を荒げているキイ。
それをなす術もなく、泣きながら支えているルラン。
緊迫したその様子に、キイの命の火が今にでも消えそうな事を皆は察知した。

「キイ!!」

突然表れた侵入者に、ルランは心臓が飛び出るほど驚き、その中にアーシュラの顔を発見して、さらに驚いた。
「ア、アーシュラ様っ!?」
生きてらしたのか!あの崖から飛び降りて…もはや死んだとばかり…。
「どけ!ルラン!!」
アーシュラはルランの華奢な身体を軽々抱き上げると、引きずるようにしてキイの傍から引き剥がした。
その瞬間、素早くアムイはキイの傍に行き、彼を抱き上げる。
「キイ!」
夢にまでも見た、愛する唯一人の人間が、今自分の腕の中にいる。

アムイは己の“金環(きんかん)の気”を凝縮させ、キイの“光輪”を呼び戻そうとした。
が、いくら彼に“金環”を送り込んでも、キイの容態に変化がない。
アムイは焦った。このままだと本当にキイを失う…!!
背筋がぞっとした。間に合わなかったのか?どうしたら…!!!

アムイはふと、吸気士(きゅうきし)に会ってからずっと考えていた事を、実行してみようと思いついた。
きっと、このままの“気”の量では追いつかないのだ…。ならば…!

通常ならば、第九位以上の“気”を自分のものとして使うとき、他力(五光・金環)を呼び込む術が必要となってくる。
普通の人間は、そのために自然界の力を自分の方から働きかけ、呼び込み、己の持っている“気”と融合させて、外に放つ。
だが、元々“金環の気”を持つアムイには必要なかった。何故なら、すでに彼の身の内にその“気”があるからだ。
キイもそうだが、ちょっと同調するだけで、凝縮させ、すぐに使えるようになる。
だからアムイは今まで、自分から自然界に働きかけた事がなかった。
その必要がなかったからだ。
だが、聖天風来寺(しょうてんふうらいじ)を出てからは、キイに《たまには受身だけでなく、積極的に自分から働きかけてみろ》と、言われて何度か挑戦した事があった。しかし思うように上手くできなかった。その理由が今ならわかる。
…己の持っていた闇の箱が、自然界との繋がりを邪魔していたのだ。
闇の箱が開かれ、消えてしまった今、はたして上手くいくだろうか…。

アムイは大地の核に、意識を向け、集中した。
呼び込む…大地のエネルギーを自分に…、呼び込もうと…。

ドクン!と、地底の奥深くから、鼓動が鳴り響くのをアムイは感じた。
大地が自分の呼びかけに反応してくれているようだった。

(お願いだ…!キイを呼び戻してくれ…!!)

地底の奥深くから、アムイめがけて赤くて熱い気流が流れ込んでくる。
それがアムイを伝って、キイの身体を包み始めた。
(やったのか…?)
突然キイの身体がアムイの熱い“気”に反応しだした。
奥深く渦巻いている光輪が目覚めたのだ。
だが、息が正常にならない。かえって段々とキイの息苦しさが増していく。
まるで空気を求めているかのように、キイの唇が喘ぎ始めた。

皆はその様子を、息を潜めて見守るしかなかった。
もうどうしたらよいのか、誰もわからない。

アムイは咄嗟に、喘ぐキイの口を自分の口で覆った。

本能だった。

アムイは苦しがるキイの頭を抱きかかえると、彼の唇を自分の唇で強引に開かせ、執拗に思い切り吸い込み始めた。
息を吹き込むのではない。反対にアムイがキイの息を吸い込んでいるのだ。

「う…!ふぅ、ふうぅ…う…」
重なる唇と唇の間から、キイの喘ぐ声が漏れる。

まるで深い口付けをしているような艶かしい光景に、周りは目を吸い寄せられ、息を呑んだ。
だが、当の本人達は、そんな色っぽい行為をしてるでも何でもなく、とにかく必死だ。

がち!
アムイの奥歯に固い物が当たった。
それをアムイは舌で絡め取ると、キイの口から離れ、プっと吐き出す。
コロン…。
色を失った、虹の玉が床に転がった。
そして再びキイの口を口で覆おうと、また同じ行為を繰り返す。
その都度、床に虹の玉が増えていく。
(あとひとつだ、キイ!頑張れよ!!)
アムイはキイの体内にある、最後の虹の玉を吸い出しにかかる。


アムイの“金環の気”が自分の体内に満ちてくる喜びに、キイは必死にしがみ付いた。
これで意識を上に向ける事ができる。キイはほっとした。
アムイが今、俺を呼び戻そうとしている。

時間の感覚は鈍っていたが、何となく、かなりの年月が過ぎているのをキイは肌で感じていた。
(ああ…。思いの他、時間がかかってしまった…!)
それはキイの誤算でもあった。
ザイゼムの思惑を探ってから、一年くらいでアムイの元に戻るはずが…。
キイは自嘲した。
まさかザイゼムがこの自分を追い詰めるとは思わなかった。
しかも肝心の“光輪”が暴れるのも早かった。

キイはどうしても、セドの秘宝を公にしてはならない責があった。
今はまだ、この正体を明かす事はできない。
それは国が滅んだ18年前。機が熟するまでは、己の責で封印しようとした、モノ。
力の暴走を、どうしても止めなければならなかったのだ。
あの日の二の舞にだけはしたくない。
……しかも18年前と違い、自分は大人に成長している。
子供の頃の自分の力でさえ、ああして一国を破壊してしまった。
…今暴走するとどのくらいの規模となるのか…。
自分でさえも計り知れない。


そんな事をつらつらと思っていたら、突然アムイの声が響いた。

《戻って来い!!》


最後の虹の玉を吐き出すと、アムイは叫んだ。
「戻って来い!!キイ!戻ってくるんだ!!」
「ぐ…!ごほっ!!ごほ!」
キイは大きく咳き込むと、はぁはぁと荒く息を始めた。
「キ、キイ!?」
うっすらと長い睫毛が震えたかと思うと、ゆっくりと眩しそうにその目が開いた。
まるで今まで深い水の底にいたかのように、少なくなった空気を求め、キイは大きく喘いだ。
「あ…、はあっ!はぁ…は…」
「キイ!!」
霞んだ目に、待ち焦がれた男の顔が映った。
「…よぉ…相棒…」
キイはなるべく息を整えると、かすれた声でそう言った。
「キイ…」
アムイは泣きそうな顔になって、キイの顔を見つめた。
「よかった…。キイ…。間に合った…!」
その場にいた皆も、キイの様子に安堵の溜息が出る。

(ああ!天よ感謝します…。再び彼の声が聞けた事を…!)
思わず目頭が熱くなるのを、アーシュラは懸命に堪える。
シータはもうすでに目が赤くなっていた。
ルランもまた、嬉しさを隠せなかった。
だが当のキイは肩で息をしながら、のろのろと上半身を起こし、恨めしそうにアムイを睨んだ。


「……ったく、おっせえよ!!この馬鹿!!
まったく危ねぇ所だったんだぞ!げほっ!」
「キイ……ごめん…」
思わずアムイはうな垂れた。だがその反面、変わらぬキイの口の悪さに、アムイはほっとしていた。
キイはニヤリと笑うと、アムイの頭をくしゃくしゃしながら、自分の胸に抱き寄せた。
「あー!よかったぁ!!絶対お前が呼び戻してくれると信じてた。あの時と同じ様に」
「キイ…」
アムイは言葉が詰まって、何も言えない。

「キイ、大丈夫か?」
アーシュラが嬉しさに我慢できなくて、キイに話しかけた。
「アーシュラ!シータまで!…俺を心配してくれたのか…」
キイは顔を上げ彼らを見ると、名残惜しそうにゆっくりとアムイを離した。
自分の身体はアムイの“気”を充分に受けたお陰で、落ち着いている。
このまま、何とか立ち上がれそうだ。
「アムイ、肩、貸してくれ」
キイの言葉にアムイは黙って頷くと、昔よりもほっそりとした彼の身体を支え、二人でゆっくりと寝台を下り、立ち上がった。
「ザイゼムは?」
部屋を見渡し、ルランの姿を確認すると、キイは言った。
「今、ここにはいないけど、すぐ戻ってきそうよ。アンタが危なかったから、きっともう誰か呼びに行っていると思う、ね?君」
シータは近くにいたルランに振り向いた。彼は目を逸らした。
「とにかく、ここを早く出よう!外で他の仲間が待っているんだ」
「仲間?」
アムイの口から、今まで聞いた事もない言葉が出たのにキイは驚いた。
こいつの口から初めて聞いた…。仲間…。

キイが感慨に耽っていると、いきなり出入り口から声が飛んだ。
「兄貴!王が戻ってきた!!今麓から上がって屋敷に向かってる。早く逃げよう!」
サクヤの声だ。アムイ達は緊張した。
「わかった!…キイ、大丈夫か?ずっと寝たきりだったんだ。身体、動くか?」
「おう!俺様を誰だと思ってるんだ。そんな柔じゃねぇよ」
不敵に笑う自分の相方を頼もしく見やると、彼の肩を支えながら扉に向かいながらアムイは叫んだ。
「サクヤ!お前先にイェン達とここを出てくれ!」
「兄貴?」
アーシュラもその言葉に同意した。
「その方がいい。陛下達が戻って来たという事は乱闘になる危険がある。
巻き込まれるよりも、無事に逃げてくれた方がこちらも安心だ。なぁ?アムイ」
「ああ、俺達よりもイェン達を守ってくれ、サクヤ。アーシュラ、何処に向かえば安全か?」
「この屋敷の後方、北側に獣道がある。そこをまっすぐ上っていくと、頂上の近くまで行ける。
そこから右方向に下る道があって、しばらくすると吊橋があるから、それを渡ってまっすぐ行け。
…山を越える。海側に出るんだ」
アムイは頷くと、サクヤに叫んだ。
「わかったか?サクヤ。海側の麓で落ち合おう。イェン達を頼むぞ!」
「了解!兄貴達も気をつけて!」
サクヤはそう叫ぶと、イェンランと昂老人を待たせた場所へと急いだ。

「よし。俺達も急ごう。アーシュラ、手を貸してくれ」
アーシュラは素早くキイの傍に来ると、もう片方の肩を支えた。
「…悪いな、アーシュ。恩に着るぜ」
キイが嬉しそうな目をアーシュラに向けた。きっとアーシュラがアムイ達を連れて来てくれたのだろう。
彼の友情に感謝していた。
アーシュラの胸が疼く。いつもどおりの彼に涙が出そうだ。

キイは身体に力が蘇って来るのを感じた。あと少ししたら自由に動けそうだ。
四人が急いで出口に向かおうとした時、突然ルランが扉の前に立ち塞がった。
「ルラン!」
アーシュラが叫んだ。「そこをどいてくれ!」
「駄目です!」
ルランは毅然として言った。
「陛下が来るまで、ここを通すわけにはいきません!絶対僕は退かない!」
彼の青い瞳が、揺るがない決意を表していた。
自分が何されようとも、ここを死守するつもりだ。
「ルラン…頼む。このまま行かせてくれ。お前の気持ちもわかるが…」
キイの言葉にルランは憤った。
「宵の君!貴方に何がわかるのです!貴方がずっと意識がない間、陛下がどれだけ苦しまれたかなんて…。
それを傍でずっと見てきた僕の気持ち!貴方にわかる筈がない!!」
「ルラン…」
アーシュラはルランの悲痛な叫びに、己の心臓を掴まれたような気がした。
陛下の…苦悩を、目の当たりにしてきたのは、ルランだけではない。だが…。
「だから貴方を行かせるわけにはいかない…。貴方が去ったら、陛下が…陛下が…」
ルランの目から、大粒の涙がこぼれた。
「ごめんね、君。だから尚の事、君の大切な王様とアタシ達、できるだけ争う事を避けたいのよ。
どうしてもダメなら、力づくでも退いてもらうわ」
シータがそう言いながら、ルランに近づいた。
「近寄らないで!何されても僕は…」
と、ルランが叫んだ時だった。

「よく言ったぞ、ルラン」
開け放たれていた扉から、渋い声と共にザイゼムが姿を現した。
「ザイゼム…」
「陛下!」
ルランが喜びの声をあげて、自分の背後に立つ男を振り返った。

ザイゼムは腕を組み、アムイ達を見渡した。
彼の後方には、数十人の護衛と共に、あのティアン宰相の姿があった。

ザイゼムの視線が、キイの目とぶつかった。
一瞬、彼は心底ほっとした表情を浮かべた。が、すぐにそれを引き戻した。
「キイ。目覚めたんだな…。これは手間が省けた。
ルランの言うとおり、お前をここから出す訳にはいかん」
「ザイゼム…!!」


緊迫した空気がその場を包んだ。

アムイ達は無言で剣を抜いた。

ザイゼムの後方で、護衛の戦士達も戦闘体勢で相手を睨んでいる。

ザイゼムが片手を挙げた。
それを合図に戦士たちがアムイ達めがけて突進して来た。


「お前は渡さん!誰にも渡さない!」

ザイゼムの叫びにアムイは切れた。
怒りの色が瞳に宿る。
こいつのせいで…。こいつのせいでキイは追い詰められ、俺達を何年も引き離した…!!
なのにまだそんな事を言っているのか!!
許せない!!!


アムイの怒りの剣は、襲ってきた戦士に容赦なく炸裂した。

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