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2010年6月22日 (火)

暁の明星 宵の流星 #101

ザイゼムは必死になって麓から屋敷を目指していた。
(キイ!頼む、持ちこたえてくれ!!)
見えないところで嫌な汗が流れる。
自分の後方から護衛の者達と、南の宰相ティアンとその護衛の者数名がついて来る。
不本意だが仕方がない。
キイの容態の悪化を食い止められるのは、キイを狙っている相手だとしても、気術の最高位でもあるティアンの力が必要だった。
今は彼と敵対しているという事を、考えている場合でない。

急いで屋敷に戻ってみると、中の様子がおかしい事に気がついた。
「?おい!」
屋敷は静まり返っていた。屋敷に置いて来た警護の者の姿が見えない。
嫌な予感を持ちながら、ザイゼムは上階の奥にある自分の部屋に足早に向かった。
「これは…」
上階に上りきってザイゼムは眉をしかめた。
置いて来た警護の者数名が、何者かにやられたか、廊下のあちこちに倒れていた。
「誰かが侵入してるようだ」
後方で、ティアンがぼそっと言った。
ザイゼムはぎり、と唇の端を噛んだ。
(ここに侵入するなんて、奴しかいないだろう)
奥の自分の部屋から大声が聞こえてきた。あれはルランの声。その直後に聞こえた微かな男の声。あれは…。
ザイゼムの胸が高鳴った。
忘れようとも忘れられない、あの低い宵闇のような声。
(まさか…キイ!!)


「宵の君!貴方に何がわかるのです!貴方がずっと意識がない間、陛下がどれだけ苦しまれたかなんて…。
それを傍でずっと見てきた僕の気持ち!貴方にわかる筈がない!!」
「ルラン…」
薄暗い廊下の奥、開け放たれた扉からもれる灯りの方から、ルランの叫ぶ声が響いた。

(キイ…?キイ!!まさか目覚めたのか?)
ザイゼムの脳裏にあの生命力溢れる黒い瞳が思い浮かんだ。
胸がときめく。もしそうなら、私は…!!


扉を塞ぐようにして立つ、ルランの後姿が目に入った。
ザイゼムは足を緩め、扉の奥を窺(うかが)った。
ルランの前に、四人の人間が佇んでいるのが見えた。
二人の男に挟まれて、支えられているキイの姿が目に飛び込んできた。
(ああ!キイ!)
だが次の瞬間、ザイゼムは驚いた。
暁の姿は予想の範疇であったが、もう一人の人間は…。
死んだと思っていた、愛する弟の姿だった。
(アーシュラ!!生きていた!!)
ザイゼムは嬉しい気持ちが湧き上がるのを、ぐっと堪える。
(アーシュラ…、お前が暁を連れてきたのか…!)
彼の心は複雑だった。
きっとアーシュラがキイのために、暁を連れてきたのだ。
だからキイが目覚めた。
それは嬉しい事だが、反面、ザイゼムの心に焼け付くような嫉妬の感情が沸き起こった。
(キイを迎えに来たのかもしれんが、絶対に渡すものか!)
彼は前方を睨むと扉に近づいた。
「近寄らないで!何されても僕は…」
と、ルランが叫ぶ。
「よく言ったぞ、ルラン」
ザイゼムは部屋の中の人間達を一瞥した。


「お前は渡さん!誰にも渡さない!」
思わずザイゼムは叫ぶ。やっと手に入れた自分の宝。横取りなぞされたくない。
護衛の戦士達が彼の合図で四人に襲い掛かる。
アムイはまだ足がおぼつかないキイをシータに託すと、アーシュラと共に剣を抜いて応戦する。
さすが二人とも聖天風来寺(しょうてんふうらいじ)の修業者。
あれだけいた護衛の者が、あっという間に片付けられてしまう。半端のない強さ。
だが、彼らも勇猛果敢なるゼムカ族の戦士だ。数名はかなり二人に食らいつき、激しいせめぎ合いとなった。
その隙にザイゼムもまた剣を抜き、部屋に入り込むと、キイの近くへと進んだ。
シータもまた剣を抜き、キイを庇うようにして体勢を整えた。
その背後でキイがシータに耳打ちした。
「俺にも何か武器をくれ」
シータは軽く頷くと、片手で懐からナイフを取り出し、キイに渡した。
「無理しないでよ、キイ」
「おう。ありがとな」
キイは不敵に微笑んだ。

「キイ。さぁ、こちらに来い。私は本気だ」
ザイゼムはシータに剣を向けた。彼の気迫も半端ではなかった。
見るからしてザイゼムもかなりの使い手だという事が明らかだ。
「よぉ、ザイゼム。久しぶりだな!」
キイは笑った。ザイゼムの胸が詰まる。この三年、どれだけこの笑顔を見たかった事か。
「キイ、最初から言っていた筈だ。お前は私のもの。今でも変わらない。
さあ、私の方へ来るんだ」
ザイゼムは自由になるもう片方の手を、キイに差し出した。
キイはそれをちらりと眺めたが、片眉を上げるとザイゼムにからかうように言った。
「俺は誰のものでもないさ。いや、世界中の女のものかな?
今は気楽に一人の方が俺らしい。だから世話になっといて悪いが、断る」
「ほぅ?誰のものでも?…暁のものでもないのか」
キイの頬がピクリと引きつった。
「…あれだけ自分は暁のものだと言っていたのになぁ」
今度はザイゼムがからかうような口調で言う。
キイは下を向いてふっと笑うと、再びザイゼムを見て呟くように言った。
「そんな事言ってたっけ?ま、本当の事を言えば、暁…アムイが、俺のモノなんだけどな」
ザイゼムが眉をしかめる。
「お前と俺は似たものだ。自分が他人のものになるよりは、思った相手を自分の手に入れたい方だろ?
だから俺達は平行線。どちらも受身にゃなりはしねぇ。
まー、お前が女だったら、話は違ってくるんだが、残念だなぁ。
俺は女は拒めない性質(タチ)なんでよ」
キイのはっきりとした拒絶に、ザイゼムは笑った。
まったく、こいつらしい。
だが、あの時のキイの言葉に嘘はなかった。いくら自分への挑発から出た言葉だったとしても。
それなら尚の事。そのキイを受身に思わせるアムイは、特別の存在だという証ではないか。
ザイゼムの心の奥底で、どす黒いものが蠢いた。
「お前を無理にでも自分のものにしておけばよかった。
お前の意識のないときに、私を忘れられないよう、その身体に刻印を刻めばよかったよ」
「そうだとしても、俺はお前のものにはならねぇよ、ザイゼム。
言ってたじゃねぇか、たとえ陵辱されても俺は損なわれないんだろ?」
ザイゼムの目に、憤りの炎が浮かぶ。
……どんなに焦がれても、絶対お前の手には入らない……
キイの断固とした拒絶に、ザイゼムは苛ついた。
今まで望めば何でも自分の手にできた。もちろん自分の力で、だ。
その自分の世界が、この男によって崩される…。でもザイゼムは負けを認めたくなかった。
「お前を飼い馴らすのは無理か…。本当に野性のビャク(大陸原産の白虎)みたいな奴だ。ならば力ずくでも奪う!」
ザイゼムは剣を振り上げた。シータがそれを受けようと剣を構える。

ガキーン!!甲高い金属音が部屋に響いた。
「!!」

キイは驚いた。「アムイ!!」
「…お前の相手はこの俺だ、ザイゼム!!」
ザイゼム王の剣を受けたのは、シータではない。横から咄嗟に割って入ったアムイだった。
アムイの瞳が怒りのせいで、赤く染まっている。かなり身の内の“金環の気”が渦巻いているようだ。
アムイは本気だ。それは重なり合った剣と剣の熱さが物語っている。
「おい…アムイ…」
キイが思わず呟いた。その様子をザイゼムはちらりと見ると、
「やるか、小僧。いくらお前が気術の使い手とはいえ、俺は強いぞ」
と、アムイに視線を移して言い放った。
「私は気術は使えないが、これでも一族の王。…波動攻撃を防ぐ術くらいできる。
来るがいい!【暁の明星】よ」
二人の間に火花が散ったかと思うと、互いに重なった剣を振り払い、一歩後方に跳び下がった。
「アムイ…!よせ、アムイ」
キイは一年であったが、ザイゼムを傍で見てきたこともあり、彼が一筋縄でいかないほどの腕前と知っていた。
何せ、あのアーシュラの剣の手ほどきをした人物である。
キイは心の中で、舌打ちをした。くそ!自分の体が本調子であれば…!
「アムイ…!」
思わずキイが二人の前に飛び出ようとした。
だが、それをシータの腕で遮られる。
「待って、キイ!アムイを信じなさいよ」
「え?」
キイはシータの横顔を見つめた。彼の顔は真剣だった。
「アムイはアンタなしで、この四年…立派にここまで来たのよ。
アンタが眠っていた間、きっといろんな事を乗り越えてきたと思うの。
アムイだって成長している。アンタはそれを黙って見てあげればいい」
キイはぐっと胸が詰まった。…四年…?互いに別れて…四年も経っているのか…!? 
「そ、そんな長い間…」
ああ、俺はこの混沌とした物騒な大陸にアムイを一人にさせたのか…!
それが自分の、天の計画があったとしても、そんな長い時間、アムイはたった一人で…!!
「…わかってる…。俺だってアムイを信じてるさ」
思わず目頭が熱くなって、キイは上を向いて目を瞬かせた。

キーン!!
再び刃物が重なる金属音が鳴り響いた。
アムイの華麗な剣を、ザイゼムは上手く己の剣で受けていく。
その間も、彼はアムイの脇を狙う。だが、アムイも間一髪のところで避ける。 
互いの見事な剣捌きは、一歩も譲らず、特にアムイの腕が前と比べて上達した事を物語っている。
最初は怨念に突き動かされていたアムイも、ザイゼムの剣に立ち向かっていくうちに、徐々に落ち着きをもたらし、冷静になっていくのを自分で感じていた。
相手の動きがわかる!
アムイは不思議だった。
先ほど自然界での他力を実践した余韻が、自分の身の内に残っているせいなのか…?
全ての感覚が鋭敏になっているようだった。
ザイゼムが右に揺れる。その瞬間、アムイは彼が次に正面から切り込んでくるのを察知した。
ザイゼムの動きよりも前にアムイは正面に向かう。

ガキッ!!

鋭い音を立て、ザイゼムの剣が宙に舞った。剣はくるくると回りながら、彼らの横に、大きな音を立てて床に突き刺さった。
「アムイ!!」
思わずキイが叫んだ。
「あらー。本当に一本取っちゃたわねぇ…」
シータはそう言いながら、ちらりと隣のキイを盗み見た。
「…キイ。アンタ、顔が緩んでるわよ」
「え!そ、そお?」
キイは思わず、ニヤつく口元を手で隠した。だけど、嬉しさを隠せない。
「惚れ直した、って顔に出てる…」
「…はは……」
照れくさくって、反論しようとしたが、ま、いいか。
キイは、自分がデレデレした顔をしているな、と思いつつ、昔よりも頼もしくなった相棒に見惚れた。
確かに一人でやってきた年月は無駄ではなかった。あの若さだけで突っ走っていたアムイではない。
大人びた風情のアムイに、キイは目が離せなかった。
(よかった…)
安堵の気持ちがキイを包んでいく。
やはり一度、互いが離れてよかったのだ。

(お前がいるから、他は必要ない)
その言葉を聞くたびに、嬉しさよりも焦燥感と苦しさが自分を襲うようになったのは、いつからだろうか。
駄目だ。
このままでは互いにとってよくない。
確かに自分はアムイが少しでも元に戻って欲しくて、ずっと傍に付いていた。
アムイも俺のために、ずっと離れはしなかった。
それが互いにとって、一番しっくりくる、居心地のいい世界だ。
他人に心を閉ざしてから、自分は何とかしてアムイを外の世界に連れ出そうとした。
アムイが昔に戻るのなら何でもした。…過保護だと自分でも思うくらいに。
だが結局、アムイが外に目を向けない、(お前だけでいい)そんな科白を言わせていたのは自分だった。
アムイが俺に依存しているように、自分もまた愛しさのあまりアムイを手離せない。
…聖天風来寺(しょうてんふうらいじ)を追い出されてから、益々その焦りは本格化した。
今まで、聖天風来寺という狭い世界だったから、何とかなった。
でも、そこから広い大陸に出れば、このままでいい筈がない。
他者との係わり合いなくして、魂の成長はありえない。
その限界に迫った時、天からの響きと共に、己の心は決まったのだ。
《二人を離してはならない…》皆から言われたその言葉を一度切り捨てる。
一度、互いが離れ、各々一人でこの世界を生きようと。

…だから馬賊に自分がやられ、まさかゼムカに捕らえられようと、キイはすでに覚悟をしていたのだ。
このような事態になる事を。互いがいい意味で自立するために。

ザイゼムはちっと舌打ちをすると、床に突き刺さった自分の剣を一気に引き抜いた。
「やるじゃないか、小僧」
ニヤリ、とザイゼムは笑った。アムイは再び緊張した。
その言葉が終わらないうちに、第2戦が始まる。
今度はザイゼムも容赦しなかった。激しい動きでアムイを攻めにいく。
アムイも必死にそれを受け、避け、反撃する。
激しい攻防が展開されている。
しばし息を呑んで二人の戦いを見守っていたキイ達の横から、アーシュラの叫ぶ声がした。
「おい!新手が部屋になだれ込んでくるぞ!!早くここから出ないと!!」
部屋に緊張が走った。
アーシュラはゼムカの戦士をやっとの思いで倒しながら、キイとシータの方に向かって来た。
扉から大勢の戦士達が駆け込んできた。
しかもゼムカだけではない、見るからに南の兵士も中にいたのだ。
その兵達を不敵な笑みで見送るティアンが扉から姿を現した。
「ティアン宰相!」
キイは唸った。こいつがいたのか!まさかこの兵もこの男が…。
「まったく、私の機転で味方を呼ばなきゃ、今頃どうなってたんでしょうかね…。ゼムカの王は」
皮肉めいた口調でそう呟くと、キイを自分の扇子で指しながら、ティアンは叫んだ。
「我が南軍は【宵の流星】を捕獲しろ!あとは斬って捨てよ!!」
その声で、アムイとザイゼムは我に返った。
「キイ!」

わっと兵と戦士達がキイ達を取り囲もうとする。
アーシュラとシータは剣を振りかざし、彼らをなぎ倒す。
「早く!ベランダから出るぞ!」
アーシュラはキイに叫んだ。
シータがキイをベランダに誘導しようと手を伸ばした。だが、彼は何を思ったか、その手をするりとすり抜けると、驚くほどの敏捷さで、部屋の隅で固まっていたルランの腕を引っ張った。
「宵の君!?」
突然の事で、ルランは困惑した。
「お前も来い!!」
キイはそのまま叫ぶと彼の腕を強引に引っ張り、引きずるようにしてベランダにいるアーシュラ達の方へと戻った。
「キイ?」
突然のキイの行動に驚いた者達は、一瞬動きを止めた。
その隙を窺(うかが)って、キイはルランをがしっと後ろから抱え込むと、部屋にいる人間達にまるで見せ付けるようにルランを盾にし、彼の首筋にナイフを突き立てた。
「キイ!!」
「宵の君!!」
ザイゼムもルランも、まさかの彼の行動に心底驚きを隠せなかった。
「俺達が出るまで、ここを動くな」
冷たく、しかも本来の低い声にドスを効かせ、キイは敵を牽制するために言葉を発した。
「…言う事を聞かなければ、こいつの首を掻っ切る!!」

衝撃が部屋に広がった。
「うそだ…。よ、宵の君…」
がっちりとキイに羽交い絞めされたルランだったが、どうしても信じられない。
「何を言う、キイ。お前にそんな事、出来るわけがない!」
信じられないのはザイゼムもだった。あのキイが、ルランを手にかけるなんて考えられない。
はったりなのでは…?
緊張感漂う空気の中、ザイゼムはキイの言葉を信じられないまま、前に進もうとした。
「やめろ、そんな嘘をつくな!お前がルランのような少年を、自分が逃げるために殺そうとする奴でない事はわかっている。
人質を取っても無駄だ!キイ。さ、早くルランを離せ」
キイは、手を伸ばしたザイゼムが近づこうとするのを、氷のような目で一瞥すると、口元だけふっと笑みを浮かべた。
「俺が本気でないと…?」
ぐっとナイフを持つキイの手に力が入る。
「よ、宵の君っ!!」
ルランはぞっとした。と、同時に、首筋に鋭い痛みが走った。
「キイ!!」
つぅーっと、ルランの首筋から一筋の赤い血が流れた。
「これでも俺が本気じゃないと言うのか」
キイの目は気迫に満ちている。
「さあ、俺のいう事を聞け。そうしなければ、今度こそこいつを刺す」
「あ…ああ…。へ、陛下…」
ルランの瞳に恐怖の涙が浮かぶ。
本気だ。
彼の手には何のためらいもない。要件を飲まなければ、確実に実行するのは間違いないだろう。
【宵の流星】の冷徹な面を、周囲は固唾を呑んで見ていた。
噂には聞いていたが、普段は天神のように美しい姿という事もあり、皆それに惑わされているが、肝心な時には鬼神のように冷徹になると囁かれていた。その姿を、敵陣は初めて目にして背筋が凍った。

その緊迫した様子を打ち破ったのは、ティアンだった。
「何をしている!そんな人質、我らには関係ない!
早く宵を捕まえろ!!」
彼の叫びで南の兵士は我に返り、武器を握り直すとキイ達に襲い掛かろうとした。
キイのナイフが鋭くルランの首に、また突き立てられる。
「陛下あっ!!」
ルランの悲鳴に反応したザイゼムは、彼を庇うようにキイ達の前に躍り出て、南の兵士に剣を振り上げた。
「ザイゼム王!」
ティアンが咎めるような声で叫んだ。
「手を出すな!南の兵士よ!」
その一言で、ゼムカの戦士達も南軍に対峙した。
その様子にキイはニヤッと笑うと、部屋の中央にいるアムイに叫んだ。
「アムイ!早くこっちに来い!行くぞ!」
アムイは、キイの声に弾かれるように走り出すと、ベランダから飛び降りようとしているシータ達と合流した。
キイはそれを確認すると、低い小声でルランの耳元に囁いた。
「ルラン、悪いがしばらく一緒に来てもらう」
「え…?」
そう言い終わらないうちに、キイはルランをさっと抱えると、今まで臥せっていたとは思えないほどの機敏さで、ベランダを乗り越えた。


「ザイゼム王!何て事をしたんだ!たった一人の小姓のために、みすみす宵を逃がしてしまうなんて…!」
「逃がしはしない!」
ザイゼムは叫んだ。彼は悔しさで全身が燃えるように熱くなっていた。
「だが、宰相。勝手な真似はしないでいただきたい!我々の事に口を出して欲しくない!!」
ザイゼムはそう一喝し、身近にいた戦士に目配せすると、半数の戦士を引き連れ、部屋を急いで飛び出して行った。
「ザイゼム王!」ティアンが続いて部屋を出ようとした時、残ったゼムカの戦士が彼を取り囲んだ。
「通せ!!」
ティアンが怒声を放った。しかしゼムカの戦士達は身じろぎもしない。
南の兵とゼムカの戦士の睨み合いが始まった。

キイの奴、本気だ。
あの冷たい無機質な瞳を見て、ザイゼムはぞっとした。
それは初めて見た、キイの鬼神の部分だった。
……ふふ、だからこそ奴は面白い。だからこそ、こんなにも惹かれてしまう。
お前を逃がしはしない…。だが、まずルランを返してもらう。
あの子は私にとって、いるだけで癒される存在だ。みすみす奪われては適わない。
キイ達が消えた方向から推察すると、きっと山を越え、海側に出るに違いない。
ザイゼム達は彼らの形跡を追って、疾風のごとく薄暗い山道に消えて行った。

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