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2012年12月 9日 (日)

暁の明星 宵の流星 ♯182

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【お詫び】
更新が遅くなりまして大変申し訳ございません。
ここで、皆様にお詫びを。
前回で呟きましたように、現在更新中の内容を大幅に略する事になりまして
#181までのお話からいきなり飛ぶような形となります事をどうかお許し下さい。
この、ロータス(ユナ編)のお話の詳細は、機会がありましたら番外編という形で発表いたします。
…書き手の至らなさで大変申し訳ありません。
なるべく話がわかるように展開していくつもりです。
何せ、ロータスのお話は考えれば考えるほどに膨らみすぎて
こちらがメイン?か?と、自分自身でもびっくらこいているくらいでして。
………とにかく、少女の頃から彼女は激しくレツに恋していた、という事実だけ覚えていていただければ幸いです。


現在、某投稿小説サイト(R18)に投稿準備中
……あまりにものハードルの高さに眩暈を感じ、気持ちが萎えそうです……。
(大丈夫か、おいっ)

それでは急に飛びますが(滝汗)
#182をお送りいたします。
内容としては#175の続き、と思って下さい。


バナーを作ってみました。今、無料でここまでできるんですねぇ…。すごい。
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窓から差す星明かりが、夜はまだ深いという事を示していた。
気がつくと、自分の枕元で女の影がゆらめいている。
これで何度目だろう?
女はいつも自分の視界の中、哀しげな表情でじっとこちらを見ているばかりだった。
そう、いつも何か言いたげなのに、その言葉は自分には届かない……。
そんなもどかしい日を幾つも重ねてきていたが。

この夜は違っていた。

寒さが増していく北の国では、今夜かなり冷え込むだろうと皆が話していた。
そのせいだろうか、キーンとした張り詰めた清浄な空気が肌の感覚を研ぎ澄まさせ、自分の中の余分なものが浄化されていく感覚を覚える。おかげでいつになく神経がむき出しのようになり、己の五感が鋭敏になっていた。

だから。
きっと彼女の波動と繋がる事ができたのだと思う。

≪アムイ…≫

懐かしい声は空気を伝ってではなく、頭に直接届いた。

≪……ロータス…か…?≫

自分の名を呼ばれたアムイもまた、心の中で懐かしい彼女の名を呼んだ。

ロータスの懸命な様子は、どうしても今、自分に何かを伝えたいというもので、それでアムイは合点した。
彼女のいつになく切羽詰った波動が、今の繋がりやすい環境を作ったのだと。
自分に何かを伝えるがために、彼女は異空間同士の回路を繫ごうと必死だったに違いない。
もうすでに肉体のある者とそうでない者。同じ空間にいても次元が違う場所に存在している二人。
発している者以上に、受ける側にも波動を合わせる必要がある。それを知らずにできる者もいれば、訓練によってできる者もいるだろう。

彼女は今までずっと、アムイの元へ飛んではこうして訴え続けていたのかもしれない。
アムイの霊的な能力の開眼。そして今夜の澄んだ空気の凝縮。
これが執拗な彼女の訴えで波動が強まり、自分との回路を繫ぐきっかけとなった。

ここまでくればあとは同調する事に専念すればいい。

≪……君が…酷い死に方をした、というのはガラムから聞いた。…だからだろ?君が俺のところに現れるのは≫

アムイは心の中で呟きながら、寝床から上半身を起こし、ゆっくりと後方を振りかえった。
顔を上げると目の前に彼女の泣きそうな顔が薄ぼんやりと目に入る。
霊体の彼女はずっとずっと謝罪の言葉を口にしていた。
それはアムイを心配しての事と、自分のせいで親しい人間の人生を狂わせてしまった事への罪の意識が強いように感じた。


アムイは彼女に対し体ごと正面に向き直ると、背筋を伸ばしてきちんと正座した。
気持ちを静め、ロータスの全てに向き合うために。


ここ何日かは、アムイは誰とも同室しなかった。
毎夜添い寝してくれるキイでさえも、最近では共に就寝する機会が減っている。

それはアムイ自身がそう望んだからだ。

獄界から生還して、アムイにかなりの変化が訪れていたのは皆も周知の事実だった。
涙腺の復活に伴って、昂(こう)老人が提案したのがきっかけだ。
『涙は魂の浄化の手段じゃ。どんどん流して心の濁りを洗い流してみては、のぅ?』
ならば、と、アムイは一人になる時間を欲した。
アムイの魂(たま)の浄化が最終に差し掛かっているのを、一番近くでまざまざと感じていたキイも同意した。
過去の記憶、恐怖の源、それが夢になって襲い掛かる事もあれば、突然心の底から湧き上がってくる事もある。そのつど決壊したかのように涙が止めなく溢れ出す。今までの枯渇を潤すがごとく。
とにかく大の男が、このような姿を他に晒すのはひどく居た堪れない。いくら身内のキイであれ。

だが、実はそれだけではなかった。
毎夜寝る頃になると無意識の内に他所の世界と通じる回路が開く事もあった。
すると自分の周りにこの世のものではない異形のものやら形のない思念が飛び交い、それらと戦うのに大変なのだ。
こんな状態を、普通の感覚の人間に見られるのも申し訳ない。
まぁ、その度に境目の番人をしていてくれるサクヤが出てきて結界を張ってくれるのだけども。

今回のロータスとの接触も、多分サクヤのチェックが入っているはずだ。
今更ながらに気がつくと、自分と彼女のいる空間が、他のものが入れないように気付かれない程の結界が張られている。
ということは、サクヤの奴のお許しが出ている、ということだ。
しかも魔のものなどにも邪魔されないようになのか、控えめのくせにいつもよりも強固に結界が施され、完全に外部と遮断されていた。

……その深い意味はあえて目を瞑った。
このような事はサクヤの方が専門だ。つまり、自分は心置きなく、もちろん外部に煩わされる事なく、霊(エネルギー)体の彼女と交信できるわけだ。

≪心配いらない、ここには俺と君だけだ。
……わずかな時間しかないと思うが、伝えたい事は全て話してくれ。そして教えて欲しい。
俺は君の為に何ができるのかを≫

そう、あの時。自分の命を救ってくれた、その恩を返すのは今なのだろう。
自分の推測が正しければ、彼女の死は充分に自分が関与している。ならば彼女の思いや願いを叶えるのが道理だとアムイは思う。もうすでに、彼女がこの世にいないのならば尚更に。


ロータスの唇が震え、まるで言葉を発しているかのように動き始める。
それは思念となってアムイの心に響き、彼女の全ての思いの丈がアムイの頭に流れ込んできた。

≪ああ、私は≫

残像のように儚いロータスの姿。その表情が悲しみに歪む。
実体のない空虚な映像───。まるで立体の映像を見ているかのようだ。
全てを語り尽くした彼女が最後。溜息と共に出てきた言葉がこれだった。


≪……後悔、して る──≫

アムイは目を閉じた。

彼女の今までの人生を知って、いつの間にか自分も涙を流していた。

彼女は。
“彼”のために模範的なユナの女として生きる事を決めた。

そしてその願いは叶えられ、“彼”は彼女の最初の男となり、そして彼女の夫の内のひとりとなった。

そこまでに彼女が辿った経緯に、何と言葉をかけてあげればいいのか、アムイにはわからなかった。
だって自分はユナの民ではないから。彼女の住んでいた世界は、やはり大陸育ちのアムイには理解できない所がある。


模範的なユナの女──。
結局それが最後まで彼女を苦しめていたのだけはわかった。

彼女は最後の最後まで。
ユナの掟を守って死んだ。
本人も死の間際までそう信じていた。

ユナの女を殺すことは一族ではもっとも重い罪となる。そして女も自らを殺めてはいけないという掟がある。
希少な女は子が生めない者であってもユナの宝。
だからユナの女を殺した者は同じようにして死をもって罪を購わなければならない。
それが直接であれ、間接的であれ─。

これが通常のユナの掟。

だけど、最優良を取って、成人の中で模範的で最高のユナの女と認められた彼女には、恩恵と引き換えに、生涯妻として母としてユナのために夫のために尽くさなければならないという、ユナとの誓約を強いられた。

最優良を取ったご褒美に、想っている男との初夜を。
そして模範的な女として生きるために許されたたった一つの自由─。
女としての誇りのために使える唯一の特待。

──自分の誇りのために自害できる、という究極の許し─を。

基本ユナ族では、自害は不名誉であるという風潮があった。
特に中枢部、長の方(おさのかた)の周辺、頂点を守護する者は絶対に許されない行為である。
ユナの信仰する宇宙の大樹(そらのたいじゅ)から恩恵を受けている命を無駄にしてはならないというその教えに、自らを殺すと言う行為は大樹の恵みに反逆するものと同等に考えられていた。
大樹の恵みで生かされている自分を、自分の勝手で断ち切ってはならない。
ユナ人の命は大樹のものであり、死なせなければならない時は、大樹の申し子(長、神官などに)に許しをもらって彼らの聖剣に委ねるのが一番の名誉で恩恵でもあった。
罪人はその罪の重さによって、手にかけられる人間が変わる。
だからこそ特に戦士は大樹の申し子の手にかかって死にたがった。彼らの許しなく、勝手に死んではいけないからだ。
もちろん戦いによる死は、名誉の死として大樹に申請される。病気であれ事故であれ、または老衰で死んだとしてもそれも同じ。その為に彼らは亡くなった後、盛大に弔いの儀を行い、敬意を持って死者を埋葬する。

誇り高く信心深いユナ族の人間は、死に対しても誇りを持ちたがった。
大樹に申請されれば、その恩恵が死してもなお続くと信じられている故に。
そうすれば死者の魂は大樹の懐に戻る。そしてまた、恩恵を受けて再びこの世に生まれてくるのだ。

それが適わなかった者には、死してもなおさすらいの枷をはめられ、二度と大樹の懐には戻れない。


ロータスは最優良を取った時、誓約書に署名した後に大樹の管理官(神官)から説明された。

『いいですか。女として最優良を取った貴女には、ひとつ、許されている特別待遇があります。
──それは自決の自由、です。
だからといって、これは一度しか使えない事から、当たり前ですが、重要性がない事での使用は許されていません。

よく聞いて下さい、ロータス。

もし、ユナの女としての誇りを穢されそうになった時。
そしてユナの女として自身の誇りと真実を訴える時に。

この恩恵を、自身の我が儘ではなく、生きることからの逃避でもなく、自身の高潔な思いを貫こうとする時にお使いくださる事を切に願います。

もちろん、貴女がどんな思いで自害されるかは、ちゃんとした正式な遺書なくては計り知れません。
ただ、真実は全て、宇宙の大樹(そらのたいじゅ)はご存知であります。

私が最後に言いたい事は、どうか大樹の御心に恥じないような人生を……。それだけです』


それからの彼女がどんなに必死で、良き妻、良き母をやってきたのか。

そしてどうして彼女が、自分をあそこまでして助けてくれたのか。

彼女の、最期の時を語る時には、アムイはもう、涙で彼女の姿を見ていられなかった。
見ていられなかったけれども、彼女の思念はその当時の映像さながらに、アムイの脳内に映し出されてくる。

「わかった。…わかったよ、ロータス…。
君の今までの思い、君の願い……。全てこの俺が受け止めるよ。
それが…君をこのような窮地に追いやってしまった…俺ができる事だろう…」

全てが終わった後、アムイの口からは自然に言葉が洩れていた。
その呟きにも似た語りは、傍から見れば独り言を淡々と繰り出しているようにしか見えない。

アムイはじっと暗闇の中、寝台の上で正座しながら、彼女の霊に語り続けた。
「……俺にはわかる。君の大切な人間はもうすぐここに…いや、俺の元へと来るだろう…。
その時には、君の本当の思いを、君の代わりに伝えるつもりだ…。
だけど、彼が俺の言葉を信じてくれる可能性は少ない、と思う。 
──それでも…それでもいいなら……。
君のために、俺は真摯に立ち向かうよ」

アムイは言い終わるとゆらりと立ち上がった。
それが終了の合図かのように、パシッという小さな破裂音と共に一気に通常の空間に戻った。

「…俺の精一杯の恩返しだ」
だとしても、アムイには自信はなかった。彼女の本当の気持ちを、上手く相手に伝える事ができるだろうか。
何故なら、…きっと相手は抱えきれない位の闇を抱えて、こちらへ向かっているだろうから。


遥か彼方、全く異なる次元で、ロータスが切なく首を横に振るのを見た気がした。
“ああ、お願い。……だけど無理はしないで、お願い…。私はそれ以上は望んでいない…”
そんな言葉が繰り返し繰り返しアムイの頭の片隅で響いている。
”違う、違うの…ただ私は知って欲しかったの……私のためにあの人が貴方を……貴方の事を……”


「アムイ!起きて!!」
いきなり扉が開き、慌てた様子でシータが部屋に飛び込んできた。
「…て、あれ?もう起きていたの?」
暗い部屋の中、のそっと立っているアムイの姿に驚いたシータは、その場で飛びのくと思わず後退(あとず)さった。
「…ああ、今起きたところだ。……すぐに行くよ」
「え、ええ?アンタ、アタシが何で来たのか聞かないの」
シータは妙な顔してアムイの姿を上から下へとじろじろと眺めた。
アムイはふっと疲れたように笑うと、シータの元へ向かい、通り過ぎる間際に彼の肩をぽん、と叩いてひとこと言った。
「誰が、来た?」
その問いにシータは驚いて目を丸くする。
“誰か”ではない、誰“が”と聞いている。
つまりアムイには、今、誰かが尋ねてきている状態をわかっている──。という事だ。
その考えに至った途端、シータの全身にぶるっと寒気が襲ってきた。苦い顔をして彼はそのままアムイの背中を追う。
「アンタ、何か虫の知らせでもあったの」
唐突に言うシータに、アムイは無言のまま廊下を進んだ。行き先はこの宿の玄関ホールだ。
「とにかく、客が来ているんだろ?俺に」
しばらくしてアムイは言った。「誰だ」
いつになく緊張した声にシータは肩を竦めると、「ユナの人」と簡素に答えた。
それだけでアムイは目当ての人間がやってきたのではない事を悟った。
何故なら、もしあの男が来たのなら、シータがこんな風に普通に答えるわけがない。

彼なら、隠そうとしてもきっと隠し切れない殺気を漂わせて自分の元へ現れるだろう。

アムイにはわかっていた。

ロータスの唯一の男は、自分を殺すためにやってくる。

──そしてそれと同時に死に場所を求めてここに来る。

「ああ、アムイ、来たか」
ホールにたどり着くと、キイが玄関に近い所でアムイ達を振り返った。
彼の傍には、緊張した面持ちのガラムとセツカの姿があった。
「緊急で申し訳ありません」
セツカがアムイの姿を認めると、固い口調で謝罪しながら彼に頭を下げた。
キイも心なしか表情が険しい。セツカの隣では、ガラムが何かに耐えるように真っ青な顔してじっと立っていた。その瞳は宙に注がれ、アムイの姿を映していない。それだけでこのユナの二人が不穏な話を持ってきたのだという事がわかる。

アムイはロータスの嘆きの声を頭から追い出そうと必死に奥歯を噛み締めた。今は、彼女の声を聞いている時ではない。

そう。
彼女の悲痛な声はまだアムイの耳に残っていた。


≪ああ、お願い…レツを助けて…誰でもいい、どんな形でもいい…あの人を……≫

狂おしいほどの彼女の願い。
もうすでに。
全てをアムイに吐露した彼女の思いは、すでに別の方に向けられている。

彼女が一番、強く願ったこと。彼女が死してもなお、囚われている激しい想い。
それは。


── 誰か!誰かあの人を解放して………!!

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