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2013年2月23日 (土)

暁の明星 宵の流星 #186  ※それと言い訳…… 

外に出ると闇が出迎えてくれた。その闇には無数に輝く星が冷え込んだ空気によって鮮明に煌めいている。ふと目線を下におろすと宿の門の両脇につけられている松明の明かりがかろうじて地上を照らし、周辺の様子を窺うのに苦労するほどではなかった。
アムイはつぅっと、門の外で待っている男を見止めた。
その男と目が合った瞬間、まるで引き寄せられるように互いに剣を交わらせていた。

もう、アムイは受け身でいるのをやめた。ここまで来たらレツの申し出のように決着をつけなければこの男は自分の話に耳を傾けてはくれないと思った。
カキンと耳に響く金属音を聞きながら、自分がレツとこうして剣を交えるのはこれで三度目だと思い出す。
二度目は再会の時に、そして最初の手合わせは……あの時はユナの砦で、自分がロータスに匿われていたのを夫である彼に見つかった時だ。


最初の三日間は地獄の苦しみを味わった。
それだけ自分の怪我はひどかったらしい。
怪我のために高熱が出て、意識だって朦朧としていた。
意識が戻ったのは四日目だ。目を開けると心配そうな緑の瞳が自分を覗き込んでいた。


彼女――ロータスはアムイを見つけた後、すぐに弟のガラムに協力させ、瀕死の彼を近くの小屋まで運んだ。その小さな入り江の近くには、移動人数が多い場合に誂えた予備の宿泊場が点在している。
幸いなことに近く始まる祈願夜(きがんや)を本島で過ごす人間が多かったため、今この砦に滞在している人間が少なかった。したがってこの砦から離れている入り江付近の小屋には誰もいないし滅多には訪れない。人が多くなる時期に手入れをするだけの、本当に普段は放っておかれている場所だった。
事実、ロータスの夫達で今時分、砦に残っているのは二人だけだ。長夫のルオゥと四夫のトルビィ。
それももうしばらくすれば祈願夜のために大樹管理護衛官であるルオゥも本島に戻らなくてはならない。でもその入れ替わりにレツが休暇を取って砦に来る予定だった。
砦の任務は、もとはギラン隊諜報部員である三男シキに命じられたものだった。あらゆる情報を手にするために、有能なシキは度々大陸の接点である砦に赴いていた。特にその手腕を見込まれて、一年の滞在を命じられたのは先月に入ってからだ。
それと同時に近衛隊副長であるレツも大樹管理護衛官のルオゥも砦を拠点とした任務を任され、トルビィも同じギラン隊であることから砦勤務となり、結局夫達はほとんど砦に入り浸ることになったのだ。否応なく妻であるロータスも夫達に従わなければならず、小さな息子二人と未成年の末の夫を舅と姑に任せて島を往復している。
砦の勤務はユナの戦士であれば必ずしなければならない大事な勤めだ。特に兄弟がすべて戦士であれば尚のこと。外界に接する重要な場であるとして、ここでの勤務を勤め上げればかなりの昇進と昇給を約束される。今回はシキのおかげでその役が回ってきたと言ってもおかしくなかった。当のシキはほとんど外界に出て行きっぱなしで砦にいない方が多いというのは皮肉なものだが。

ロータスの、渾身の看護がアムイの命を救った。
出血多量で死にかけていたアムイにさまざまな治療を施し、ユナ秘伝の延命薬がよそ者であるアムイに効いてくれたのが幸いし、みるみる彼は驚くほどの回復力をみせた。
ユナ秘伝の薬とは、大樹から採れる琥珀色の樹液からできる万能薬である。その第一の効能は生命力。何しろ宇宙の大樹(そらのたいじゅ)の命そのものを薬としたのだから。

本当に幸運だったのだ。
ロータスは人目を忍んでは看護のために入り江付近の小屋に通った。
もちろん、たった一人、不安を抱えた弟のガラムだけは知っていたが、夫達にも砦の上官にも誰にも内緒で彼女は男を匿ったのだ。
十日もすれば起き上がれるくらいに回復したのは驚いたが、意識を取り戻した男はとても褒められたものでない慇懃な態度だった。
今にすれば、ただ単に混乱していたことと、警戒していたからに他ならないが、それがまだ子供だったガラムには助けてもらって嫌な奴、としか映らなかった。
それが不満となって、つい義兄達の前でガラムの口からそのことがポロリと出て、発覚し大騒ぎとなってしまうのだが、もうその時点では、ロータスを命の恩人と認めたアムイと、ささやかな心の交流ができ始めていた。


ロータスの方も何か確信めいたものがなかったわけではない。だからわざとアマト元王子の肖像画を彼に見せ、反応を窺った。
微かな動揺を彼の目に見て、その時彼女は確信した。昔に一度だけ聞いたかの人の息子達の名前……シイ、だったかカムイだったか……やっと聞けた彼の本名はそのように似た響きだったし……。
ロータスは目の前の青年がどう考えても神王の直系 にしか思えない。
彼女の心はあの憧れた美しい元神王太子の憂いた眼差しをまざまざと思い出し、彼との約束をゆっくりと噛みしめていた。

これもきっと天の導き。
彼を私の元へと送ったのはきっと大樹の御心なのだ。
……私は彼を護らなければならない……。

彼女の純粋で崇高なる思いに一点の曇りもなかった。だが、それを理解できるのは、いくら説明したとしても、あの場にいた長の方である義理の父と、側近のセツカくらいであろう。
強いて言えば彼女が女でなかったのなら。人妻という立場でなかったら。
──このような悲劇を生まなかったかもしれない。

彼女はこの怪我を負った初恋の君そっくりな男が、確証もなく簡単に身分を明かしてはならない存在であるということを理解していた。もちろん、彼女が世相に興味を持ち、ある程度の知識と見識を持ち合わせていた稀有な女性だったから、難なく理解できたことだったが。
その深い意味を知っていたからこそ、できれば中枢部、いや長の方に直接確認や指示を取るまでは、何が何でもアムイを護ろうと使命に燃えていた。
それが他者の目にどういう風に映ったのか、その時の彼女は全く考えもしなかったのだ。
いや、きちんと己の立場を思い出せたのなら、容易に考え付くことでもあった。
ただこの時のロータスは、自分がユナの女であり、人の妻であるという事実に思考がいかなかった。ただ早く彼を本島の中枢部に申告し、保護したかった。そればかりに囚われていて、基本的な事実を軽んじていたという事に、この後もの凄く後悔する。
それでも、まさかここまで自分が女であり妻であることがこんなにも障害になるとは、その時の彼女は思ってもみなかった。


――特に、彼女は知らなかった。

まさか夫であるレツが、彼女と匿われている男との会話を聞いていたなどと。

この世の中で一番愛している男に、とてつもなく大きな影を自分が落としたという事実さえも……。


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* *ここから言い訳(近況報告) * *


今回短くて申し訳ありません。
つい先日妹が絶対安静の中、ひと月も早く赤ちゃんを産みまして、周辺がバタバタしておりました。
早期早産の可能性があって、半年以上も入院して何とか持たせることができました。
ちょっと小さい子ちゃんだったけれど、母子ともに健康で(何と出産まで6時間という早さ!)しばらく姪は保育器に入っていますが、姉としてはやっと一安心です(ほっ)

20日にはその妹の夫である義弟のおかげで、ネットにもつながり、いざ更新、と頑張ってみたのですが、結局遅くなってしまいました。しかも短いし(泣)

ちょっといつもと違う環境で話を書いているせいもあって、まだ戸惑っているというか…。
新しくなったもう一台で(Windows8)書き始めているのですが、いやー、慣れない慣れない。
結局再び、いつものXPの方のパソコンで書いてます……。


それと今週中には、某所への投稿を始める為に、やっと加筆と修正部分が出来上がり、これまた慣れない小説投稿サイトでの投稿の仕方に頭を悩ませている次第。

……慣れないことはするものではありません……。
でも、やらないと慣れないですしね!(ううむ~ん)

こちらの方は、第一章を少し投稿してみてから詳細をお知らせいたします。
ただ、完全な18禁バージョンでありますので、18歳未満のお嬢様は今回はご遠慮ください
もちろん、そういう内容が苦手な御婦人もお避け下さい。
このブログでは15Rということで展開している部分を、かなり詳細に加筆している部分がございます(汗)特に冒頭は娼館でもありますので、察してくださいませ。
もし興味がありましたらこちらもよろしくお願いします。


結局書く時間をなかなか確保できないまま、すでに2月も後半に。
ユナの話が終わらないと、光輪も発動しない。
ううむ、ここは踏ん張りどきです。

後半になればなるほど、おのれの未熟さに泣いています。

それでもご訪問を本当に感謝しています。
目標の今年半ばの終了目指して頑張ります。

Rahu
結局イラストの方も書きかけで(苦笑)いつかペンタブをゲットしてパソコンで描きたい自分です……。ああ、金と暇が本当に欲しいよ~(愚)※しかしこの絵はいつか完成するのか?

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コメント

姪御さんのお誕生、おめでとうございます!!
妹さんも頑張りましたねぇ。

某小説サイトへのUPたのしみにしていますね。
なにかとご多忙かと思いますが……。
しっかり拝読しに伺いますね!!

投稿: aoao. | 2013年2月23日 (土) 午後 10時16分

aoao.さん!
お祝いのお言葉、ありがとうございます!

それにずいぶんご無沙汰してしまって本当に申し訳ないです(うう)
それなのにいつもご訪問いただき、とても嬉しいです。

18Rバージョンは、今日明日にはアップすると思います。
よろしかったら覗きに来てください。
自分のマイページには出ていると思います(18Rの方で)
……大人の描写、一応自分なりに頑張ってみたでございますよ(汗)

もちろん自分も近々そちらに伺います。
時間が合うときにでも、またかまってくださいねー。

投稿: kayan | 2013年2月24日 (日) 午前 01時48分

姪御さん、無事の出産おめでとうごおざいます!
本当によかったですね!
命の健気な輝きを感じました(^u^)*;+.:
妹さんも本当に頑張りましたね!尊敬します!

今回も素敵な展開でした。
ユナの女の誇りを垣間見た、それに夫への愛情も。それもとても良かったです!


投稿: pega | 2013年2月28日 (木) 午後 10時45分

pegaさん、コメントありがとうございます!

しかもお祝いの言葉まで。とても嬉しいです
お陰様で保育器に入っていた姪も来週には退院できそうです。

また読みに来てくださってありがとうざいます。
実はココログのせい?それとも自分のパソコンのせいなのか、先ほどpegaさんのコメントを発見しました(汗)
ほとんどこのブログを行ったり来たりしていたのに、何故…
それでお返事が遅れて申し訳ありませんでした。

これからちょっと更新ペースを早めようかと思っています。
文面が短くなるかと思いますが、また覗きにきてくださいね!

投稿: kayan | 2013年3月 1日 (金) 午後 11時07分

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