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2014年5月22日 (木)

暁の明星 宵の流星 #200

時は多少遡(さかのぼ)る。

まだ王宮がミャオロゥ王子側に占拠され、息のかかった中央軍が国境封鎖を遂行している頃である。
アムイとキイ達がシュンメイに匿われ、教会に大人しく潜んでいる時、彼らの知らない所で周囲は目まぐるしく動いていた──。

◇◆◇◇◆◇

「本当にご協力を感謝します、ティアン殿。ミャオロゥ殿下はそれはそれはもう、心から貴殿に感謝しております。
──もちろん、殿下が即位し、この北のモウラを治めた暁には、ティアン殿を最高の待遇でお迎えするように、と仰せられております……」
「いや、有難い事ですがそのようなお気遣いは結構です。
私はただ、北の国の国境全ての封鎖と港の閉鎖、それを望んで今回はミャオロゥ王子にご協力したに過ぎない。
……まぁ、南の大帝が出てくるまでは、私達は良好な関係を結んでいたのですから、王子のお味方をするのは当たり前の事ですよ」

内面の焦燥を押し隠すように口元だけ微笑んだ鋭い眼差しの男は、南の国リドンと決別したその国の宰相だった。
実際、この男が南の国で宰相の仕事をきちんとしていたかどうかは定かではない。
元々南のガーフィン大帝には前大帝時代からの有能な宰相がついていた。だが彼は高齢で、その補佐としてこの男を呼び込んだに過ぎなかったのだが、滅亡したセド王国の秘宝の鍵を握る者として大帝に優遇され、いつの間にかよそ者のこの男が宰相の地位にどっかりと居座っていた、というのが真相だ。
現在、彼が大帝の怒りを買い、捕らえられたが逃亡。元々持っていた自分の組織に戻って早数ヶ月。南の国の宰相には前々の有能だった宰相の孫が今は納まっているらしいが、当の男にはどうでもいい事だ。

そう。この男──ティアンにとって南の大帝は自分の野望のための踏み台にしかならなかった。

北の国第一王子ミャオロゥの使者だという軍部の男(話によると親戚だとか言っていた)が帰っていった後、ティアンは先程と違って険しくも鋭い目を窓の外に向けた。
視界には悠々と灰色に染まる冬の海が広がっている。本格的な冬の訪れだ。
他の国に比べ、北に一番近いこの国の冬は厳しい。この国が凍りつく前に、何としても目当てのものを手にする必要がある。

「……この国から出すものか、キイ……」

この男が″彼“の事を異名ではなく、本名(ほんな)で呼ぶのはここ久方ぶりだ。″彼”がこの世に生まれた落ちた時から知っているという事を世間から誤魔化すため、異名で呼んで何年経ったのか。……もう少しで。ようやく追い求め続けていものが手に入る。

ギリギリと口元をゆがめた後、無意識のうちにティアンは呟いていた。
「誰が何と言おうとも、お前はこの私のモノなのだ。──この世に現れた時から」

"神の気を持つ子供”の話を師匠であったマダキから聞いてから、そしてこの目で本人を一目見てから、セドの王子であるキイ・ルセイをティアン欲した。
キイがセドの王子だからではない。
性別がどうであれ、純粋に彼の美貌と持って生まれたその力に引き寄せられた。
まるで、自分のためにだけ生まれてきたような人間──。
気術を極めようとする自分にとって、神の気"光輪”を持つキイは絶対になくてはならない存在なのだ。

ティアンにとって、元養い子だったカァラの取った所業は、皆が思っているよりもかなり手痛い事だった。
よりのよってよくもこのタイミングで、キイの素性を証明する王家の名簿が刻まれた石板が、あのカァラの手に渡り、公表されてしまうとは。
あと、もう一息だったのに。
できればキイがセドの王子だということを世間に認識されたくなかった。彼が王子と認められてしまったら、自分が思うように動けなくなる。絶対に各国が大騒ぎするに違いない。実際、ほら見ろと彼らはキイを保護する方向に話が進んだではないか。

(早めに察知してミャオロゥの奴を利用させてもらって正解だった。国内の紛争という事でこの国を封鎖すれば、簡単に他の国の奴らが入り込んでくる可能性も少なくなるし、それにキイをこの国に閉じ込めておける)
もちろんティアンだってこの状態が長く続くとは思ってはいない。なにせ指揮を取っているのがあの愚鈍なミャオロゥだ。いつ形勢逆転されるかわからない。この好機に一気に彼を見つけ出し、全てを己のものにするのだ。

そう、キイの真の価値を知られてしまう前に、早急に彼を見つけ出し、この手にしなくてはならない。

特にあの執拗なゼムカのザイゼムが、こうしている間にもキイの行方を突き止めているかもしれないと思うと、焦燥に身が焦がれる。
それ以上にキイの傍にくっついている余計な人間達を早く排除したい。特に相方と豪語している"金環の気”の使い手であるアムイをも。

"金環の気”がキイの持つ"光輪の気”に呼応するのを知った時から、ティアンは着々と準備を進めていた。
己の"金環の気”をキイの"光輪”と同調させる研究のために、吸気士であったカァラの実父シヴァを使って、大陸に10人といない"金環の気”の持ち主からサンプルを収集し、その後こっそりと刺客を放って彼ら次々と抹殺した。
全ては己が"光輪”を制する唯一の"金環”の持ち主になりたいが為である。

──そして残った"金環の気”の持ち主は、とうとうあの忌々しい昂極大法師(こうきょくだいほうし)とアムイだけになった。

だが、キイの相方と名乗るアムイの抹殺はことごとく不発に終わり、二人が離れていた好機も逃し、今のティアンは精神的に追い込まれていると言ってもよい。そんな時にキイの素性の暴露だ。
これ以上、不利な種を増やしたくないティアンは、こうして強硬な手段に出たのだった。

「ティアン様っ!ティアンさまぁ!」

物思いに耽っていると、側近であり己の研究助手でもあるチモンが、興奮した様子でティアンのいる部屋に飛び込んできた。今まで客人をもてなすために傍に待機していた、護衛を任されているティアンの甥、ロディはあからさまに嫌な表情を浮かべる。ロディはチモンが嫌いだからだ。

「おお、どうしたチモン」

叔父でもあり、この組織の頂点であるティアンの優しげで甘ったるい声に、ロディは内心舌打ちした。
この叔父の二面性は昔から知ってはいるが、こうまでしてこの研究助手を手懐けたいのかと、悪態をつく。
ほら、言わんこっちゃない。──急いで飛び込んできて息も上がっているこの男は、その声に益々息を荒げ、茹でたこのように真っ赤になっている。相手を心酔しきっているあの目。
滑稽だ、とロディは思う。
叔父は確かに気術に関してはもの凄い才能を持っている人間だ。だが、人間性に関して言えば首を捻らざるを得ない。そんなの、幼い頃からわかりきっている。気術の才能があっただけで、実の姉から幼かった甥を略奪するような男だ。
己の野望のためには手段を選ばない、自分にとって役に立たない他人には心底冷酷になれる。そんな面を近くで嫌というほど見てきた。
ロディはやはり幼い頃から共にこの男に仕えてきた青年を苦々しい思いで眺める。ほとんど無表情であるロディだから、彼が内心自分を疎ましく思っているとは全く気付かないチモンは、ちらりと彼を見ると得意そうに笑った。

もう二十歳(はたち)を越えているだろうに、童顔と小柄な体躯のせいでチモンは今でも見た目は幼さい感じが抜けない。そういうところもティアンのお気に入りなのだろうが、それ以上に気術研究者としての才はロディよりもはるかに上だった。チモン本人はある程度の"気”を使えても、実践するにはお粗末な程度だ。が、理論や扱いに関してはティアンと肩を並べるくらいと言っていい。
だからあの叔父が何年もこのチモンを傍に置きたがるのだ。単純で、研究以外は愚鈍なチモンには甘すぎるほどのエサを与えればいい。あの鬼畜な叔父が、チモンに対してだけは非道な扱いをした事がない。褒めて伸び、萎縮させると潰れるという繊細なチモンの性質を見抜いているのか、とかく甘く甘くなりがちな叔父に、ロディはやり切れなさを感じている。
あの南の大帝に捕らえられたときも、拷問の恐怖に耐え切れず早々に内情を暴露したにも関わらず、ティアンはあっさりと彼を許した。ティアンにとってはそれ以上にチモンの助手としての働きの方が大事だったと言うわけだが、ロディは今でも釈然としない……。

──気術の実践に関しては、まるで兵士のように厳しく訓練され、泣いてもすがっても突き放され、それなのに第二次成長期までは夜伽を強要させられた。叔父としてさえの愛情を微塵にも与えられず、苦渋を舐めさせられてきた自分を思うと、目の前に繰り広げられる(ある意味)師匠と弟子の馴れ合いが空々しい。

「そうか!やっとそこまで融合したか!」
ティアンはチモンの持ってきたデーターを食い入るように見ると、先程までの鬱屈さを払拭したかのように満面の笑みを浮かべた。
「はい!これでティアン様の思うとおりに事が運ぶことでしょう」
対するチモンも誇らしげに胸を張っている。ああ、褒めて褒めてと尻尾を振っているのが目に見えるようだ。
「でかしたぞ、チモン。さすが私の弟子だ。……おお、これでようやく…」
「ティアン様!」
何やらティアンの究極の研究が形になったようだ。……彼の目的である【宵の流星】に関しての。
うんざりしたロディは、手を取り合ってはしゃぎあっている二人を残して部屋を出た。

「…馬鹿馬鹿しい…」

ぼそりと零した言葉に、ロディはハッとすると辺りを見回した。
鉄仮面、と周囲から言われるほどの無表情の自分。いつから表に己の感情を映す事ができなくなったのだろう。……顔に出ていなくても、ロディの心は雄弁だ。
見た目がこうだから、自分の事を冷静で何も感情がないティアンの人形と称されているが、実際の内面は激しいくらいにドロドロとしている。──それを表に出さないよう、必死で抑え込んで来た。出せば叔父の激昂に触れる。
幼い頃から己の保身を貫くために、叔父の人形と化して生きてきた。従順な僕(しもべ)──そうしていれば叔父はすこぶる機嫌がいい。こうして生きてきたロディは、今更叔父に逆らう気概はなく、今の境遇も敢えて反発するつもりもない。……が。
どうもチモンと己の格差を見せつけられると、今まで奥底にしまって蓋をしていたドロドロとした蠢くものが外に出ようと暴れ出す。だからロディはこういう時、チモンを無視するか傍を離れるのだ。いくら彼の、自分に対する思慕に気がついていても。いや、だからこそロディはチモンを排除するのだ。徹底的に。それが自分の加虐性を刺激し、悦に導くと自覚しつつ。

「俺って結構屈折してる」
誰もいないと確認してから忍び笑いし、本音を漏らす自分は、本当に歪んでいる。
ロディは再び能面のような顔に戻ると、誰もいない廊下を機敏に歩き始めた。

国境の封鎖、研究の成功──。
こうして意気揚々としていたティアンが再び焦燥を味わうのはわずか数日後の事である。

◇◆◇◇◆◇


ミャオロゥ第一王子が、父王であるミンガンの不在に謀反を起こし、王宮と王都を占拠した。
もちろん、それと同時に国境封鎖のために郊外各地にも中央軍の手が伸びた。もちろん、北の国一番大きい港街、水甲(すいこう)もまた然り。
特にこの水甲は、ミンガン王の異母弟であるイアン公が領地している場所だ。しかも北の玄関とも言われ、貿易が盛んで、外国からの船の出入りが激しい。
ミャオロゥ率いる中央軍が一番初めに占拠の動きをするのは当たり前だろう。
あっという間にイアン公の屋敷諸共、港町は占拠されてしまった。
だが、幸か不幸か、イアン公の屋敷には奥方と息子たち数名しかいなかった。一番拘束し、協力を仰ぎたい当のイアン公が不在では、中央軍を新たに率いる事となったミャオロゥ王子の母方の実家、ハクオウ家縁者である中央軍准将ミンチェも一瞬、頭を悩ませた。
中央軍が水甲を占拠したとき、イアン公は二人の息子を連れて、隣町周辺の会合に出掛けてしまっていたのだ。イアン達は思いのほか議論が生じて、本当なら夕刻には戻る算段が翌朝にまで延びてしまったという。それを知ったミンチェ准将はすぐさま、屋敷の人間(主に妻子)を人質にし、すぐさま戻るようにと使者を出した。もちろん、こちらに協力するのなら何も手荒な事はしない、と丁重に文書をしたためて。
ミンチェもとよりミャオロゥの最大の恐れはイアン公が自分達の敵になる事だ。身分の低い妃が生んだとはいえ、先代王の血を引く人間であり、しかも王家を出た身でありながら水甲を豊かに治め、近隣の町や村からも尊重され絶大な人望がある人物である。──ミャオロゥが北の国の王になるためには、この叔父を味方に引き込むのが一番安泰なのである。ただ痛いところだが、ミャオロゥとて、この叔父に嫌われていると知っていた。だからこそ、無理やりでも意に沿ってもらうため、安易に武力を行使する道を選んだのだった。


「……はっ!まったく脅してくるとは、この私も舐められたものだな」
と、イアン公はつい先ほど隣町で宿泊中の宿に乗り込んできた中央軍兵士から渡された手紙の内容を、一目見るなり無造作に投げ捨てた。
兵士たちはこのままイアン公を連行する勢いで宿の玄関で待機している。さすがに元王弟には手荒な真似をするのは忍びないらしい。手紙は兵士自らの手渡しではなく、まずはイアン公の従者に渡された。そこはやはり、高貴な人物を迎えるという事なので、罪人を捕えるような荒っぽい真似は上官から固く禁じられているからだ。まず最初に、悪い印象を与えないよう、真摯に丁寧に、恭しく、目当ての人物を手中にしたい。手荒くするのは本人が抵抗してからだ。と、上官は部下に言い含めていた。まあ、すでに妻子を人質に取っておいて何を言っているのか、と傍で思うが。

「父上、兵士はあと5分で支度をしなければ、強制的に連れていくと宣言していますが…どうしますか?」
イアン公は、自分の数名の従者の他に、三男と末の息子を連れて来ていた。屋敷には妻と、今は自分の代理を任されている長男、そして4人の息子達が残っている。
末の息子であるシーランは、父親に尋ねる兄とその父の顔を不安そうな面持ちで交互に見やった。
しばらくして、父であるイアン公はこう口を開く。
「行くしかあるまい。……家族が取られてしまっては」
「父上!」
「だが、行くのは私とラオ(三男の名)だけだ」
その言葉に、え?と二人の息子は顔を見合わせた。
イアンはニヤリと笑うと、声を落としてシーランにこう言った。
「後はラオに任せて、お前は昨日からそのまま友人の家に行ったと誤魔化す。いいな、シーラン、時間がないから手短に指示するぞ」
ごくり、とシーランの喉が鳴る。父は一体、何を自分にさせようというのか。

「今すぐこの裏手にある隠し扉から脱出し、急いでオウク村に行き、オウ・チューンの協力を仰げ」
「まさか、オウ・チューン家を頼る、と?」
二人の息子は驚いた。オウ・チューン家といえば、北の御三家として有名な一族の一つだ。確かにミャオロゥの母方の実家であるシウ・ハクオウ家と並ぶ有力貴族であるが、最近は北東地域に引きこもって、王都や王宮から遠ざかっている。理由はハクオウ家の娘が正妃に納まり王子を産み、ハクオウ家の実権が強くなったからと言われている。
ここ数年、影が薄いくらいに大人しくなったというオウ・チューン家に、父は何を考えているのか。
「いや、単純な話だよ、シーラン。ここ数年、土地柄にも近いという事もあって、私はオウ・チューンの当主と懇意にしていてな。……それはお前だってわかっているだろう?当主の後継者であるジンとお前は学友で、かなり親しくしてもらっていたしな。で、……彼の持っているものは何だ?」
シーランは自分の学友でもあり、幼馴染でもある、ジン=オウ・チューンの姿を思い浮かべた。
少年の頃から武芸に秀で、鍛え抜かれた体をしているが、決して屈強というわけでもなく、細身の、竹のようにしなやかな肉体を持つ青年。そして一番記憶に残るのは、彼の整った怜悧な顔。切れ長の鋭い目は、敵ならば絶対に容赦しないと物語っている。いつも、どこかしら緊張を孕んだオーラを持つ青年だ。 
彼の持つもの……それは…。
「ジン、というよりも、彼の父が自警団を持っています。……あ、そういえば二十歳(はたち)の誕生日にそれらを父親から譲られたと……まさか、父上!」
「ふふ、面白くなってきたなぁ」
イアン公は不敵に笑い、懐から小さな袋を取り出すとシーランに持たせる。「これは」
「これを当主のワンに渡しなさい。そうすれば全て彼が上手く動いてくれる」
「父上」
「さ、早く行け。いいな、誰にも見つからないように。これはお前の力量と運を試す第一歩だ。わかったな」
イアン公は彼に従者の一人をつけさせ、二人を隠し扉の方に誘導するよう近くの者に支持をする。少しばかりの不安と、戸惑いの表情をのせて、シーランは父親の言うとおりに急いで外に出て行った。父親の、″私達は大丈夫”という言葉を耳に。

「父上……、私設軍をオウ・チューン家と共に作っているというのは…本当でしたか」
「これで私はミンガンに恩を売る」
「!」
はっと顔を上げる三男のラオに、イアン公は厳しい眼を前方の扉に向けた。時間が迫ったのだろう、扉の向こう側でざわざわと慌ただしい物音が大きくなっていく。
これから拘束されるだろうに、イアン公の瞳には愉悦すら浮かんでいる。これから起こすことは、強いて言えばこの北の国…モウラのためである。
イアン公は密やかな声で、目の前に佇む息子に意気揚々としてこう宣言する。
「あのミャオロゥなんぞにこの国を任せられるわけないじゃないか。……こういう時のために、私はワン=オウ・チューンと共に自分達で動かせる軍隊を密かに作り、強化させたのだ。今、この時にこの切り札を使わなくてどうする?しかもその先導するのはワンの子息であり……同じく私の息子のシーランだ。
今、弱っている王宮とミンガンを救ってに恩を売り、ゆくゆく将来はシーランを次代の王にする」
「まさか!」
驚く息子にイアン公は声を出すなと手で制しながら、彼にしか聞こえないほどの声で自分の考えを暴露した。
「こうなって私も覚悟を決めた。そう、私はシーランをこの国の王にする。今ではないぞ。もう少し外堀を埋めていく必要があるが……。とにかく、当分はまだミンガンに王位を死守してもらおう。何せ、もうあれには跡を継ぐ息子がいない。ミャオロゥは運よくこれで終わるだろうし、シャイエイは……はっ、お前も事情を知っていると思うが話にもならん。という事は、王家の血を引く男子というのは、結局私の息子達だけだ。……そして、ミンガンの一人娘とかろうじて年も近い方、優秀で誰もが認める人間といったら、シーランしかいないだろう?そのシーランが、伯父である王を救うんだ。王家の血を引き、将来は王家の姫君と縁組めば……誰も文句ないだろう!これはなラオ、シーランを次代の王にするための布石なのだ。……ふふふ、あの馬鹿王子め、いい所で失態をかましてくれたものだ」


そして数日後、イアン公の思惑通りに挙兵した私設軍は、オウ・チューン家の御曹司ジンとイアン公の末息子であるシーランが指揮を取り、瞬く間に王都になだれ込み、王宮を中央軍から取り戻した。

その激しい戦いの中、色々なことがあったが、ミャオロゥが実弟シャイエイを斬って逃亡した時点で、私設軍の勝利となったのだった。

ただ、中央軍の残党が意外にも抵抗が激しく、王都の戦闘が鎮まったのは、王宮からミャオロゥが逃げ出してから丸二日もかかってしまい、王都の復興が懸念された。
しかし、それもミンガン王を助けた異母弟イアン公の好意で、全ての復興の手助けを受ける事となった結果、イアン公とその子息への絶大なる人気が高まったのは言うまでもない。

そしてイアン公の思惑通り、彼の息子シーランがこの北の国を治めるには、それから8年ほどの歳月が必要となる──。もちろん、彼の隣には西の国から奪うようにして取り戻した従兄弟姫、アイリンが妃として迎えられる。だが、それはまだもっと先の、別の話となる──。 


* * *

「それで、動くならこの混乱した時がいいのではと思い、こうして急いでやってきました。もう中央軍から私設軍……の方に実権が移っていますので、この地方も私設軍が中央軍を制しにやってきます。中央の話ではミャオロゥ王が港側に逃亡したという情報もありますので、それまでに行動した方がいいかと提案をしにきました」

西の王子リシュオンの声が部屋に響く。彼はアムイ達をシュンメイに託した後、再び船の整備のために小さな漁港に舞い戻っていた。だが、昂老人の一報で、急きょこうしてアムイ達の前にやって来たのだ。
そして今、彼はキイにいくつかの選択を促している。

この北の国の混乱に乗じ、一気にこの国を出るか、それとも────。

これからの彼らの動き──それは。

全てはセド王家生き残りと認定されてしまった、最後の王子キイ・ルセイ=セドナダ、彼の考えひとつにあるのだ。


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